内容説明
刑期を終え出所して以来自殺願望に取り憑かれているフェリックス・アラールは、小犬のビブを唯一の友としてパリの質素なアパートに暮らしている。彼は自らの込み入ったそれまでの人生を、丹念に記述しはじめる。華やかな若い時代、複雑な女性関係、突然の謎めいた転落…。その過程で新たな疑惑と苦悩が心に兆してくる。夜の散歩、小犬のビブの愛らしさ、主人公の孤独と狂気。そして悲劇が訪れる。犬好きだったシムノンが唯一犬を登場させた名作。
著者等紹介
シムノン,ジョルジュ[シムノン,ジョルジュ][Simenon,Georges]
1903‐1989。フランスの小説家。ベルギーのリエージュの貧しい家庭に生まれる。15歳で学校をやめ、菓子屋、本屋などに勤めた後に16歳で地方紙の記者になり、17歳で処女作『めがね橋で』を発表して作家デビュー。27歳で発表した『怪盗レトン』からはじまる“メグレ警視シリーズ”は84篇を数え、各国語に翻訳されて世界的な名声を博す。生涯で300点を超える作品を発表している
長島良三[ナガシマリョウゾウ]
フランス文学翻訳家。1936年東京生まれ。明治大学文学部仏文科卒業。早川書房編集部を経て翻訳家に(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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NAO
62
【戌年に犬の本】パリの屋根裏部屋のような質素なアパートに、野良犬収容施設から引き取ったダックスフンドのビフと住んでいる、自殺願望のある前科者。孤独な男と、彼にそっと寄り添うビフ。一人と一匹の生活は、静謐さに満ちている。それでも、その静かな生活に満足することができず、過去につながっていずにはいられない男の寂しさがなんとも悲しい。2018/03/27
bapaksejahtera
13
メグレ物でも推理物でもない作品。妻の姦通相手で事業のC/Pの男を殺し、重罪刑務所に収監された主人公は、5年後釈放されてパリに戻る。癖のある女主人の経営する書店の店員として勤務して8年が過ぎ、進行性の疾患を自覚しつつ次第に自殺願望が昂ずる。或る日曜、身体障害の男女と行き合うのを切掛に、これ迄の人生をノートに記し始める。犬を連れての生活の傍ら、夜は2週間の間に2冊を埋める。小説は日常の生活を叙述しつつ、過去の人生をカットバックで描く。嫉妬深く自意識過剰。余り感情移入しにくい主人公だが彼と共に過ごす犬が愛らしい2023/07/07
たち
9
現在と過去が入り混じった日記。そこには死期の迫った男の独白綴られています。が、到底こんなダメ男を理解することは出来ない!と、読んでいるときにはイライラしてたのです。なのになぜだか最後の三面記事を読んだとたん・・・泣けました。シムノンさん上手いよ!2016/05/06
serene
6
愛犬ビブと孤独に暮らす主人公がある決心を機に、ノートに自らの現在と過去を日記風に書き始める。 最初、彼が真に書き残したいことが何であるかがよくわからないのだが、記述が進むにつれそれが見えてくる。 奪われた後で思い知った、彼にとって欠くべからざるものものとは何なのか。 そう、たしかにそれは大切なものだ。 けれど最後の一文を読んだとき、ただ運命を受け入れざるを得ない生き物たちへの哀しみに胸が痛む。 人間という存在のなんという傲慢さ。 2012/09/25
セレーナ
5
初めてのシムノン。タイトルと表紙に惹かれて手をとった。重罪刑務所を模範囚として早めに出所。弁護士事務所を訪れ、妻と子ら、被害者の妻と子らの居場所を突き止め毎日見に行く。警察署に呼び出され彼の行為を止めるように言われる。子犬のビブと散歩したり出勤したり、勤務先の書店で陰気で何もかも見通せるかのような雇い主の老女との会話。子供時代からの記録。主人公の男がノートに付けてる日記のような記録がこの小説である。死ぬ準備の一環としての記録。最後の三面記事が実に見事に、世の不条理を描いている。短い割に読み応えある小説だ。2018/10/30
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