内容説明
月と山羊と死者たちが、あなたの恋の邪魔をする。怪異と神秘が田園を包む妖しく美しい異色の名作。イタリア文学の奇才ランドルフィの代表作。
著者等紹介
ランドルフィ,トンマーゾ[ランドルフィ,トンマーゾ][Landolfi,Tommaso]
1908年、イタリア中南部の小さな町ピーコに生まれる。一家は由緒ある貴族の家系であった。フィレンツェ大学に学び、ロシアの詩人についての論文で卒業。小説のほか、日記作品、戯曲、詩、批評など数多くの作品を残している。ゴーゴリ、プーシキン、ノヴァーリスなどの翻訳も手がけた。優れた文体、豊かな想像力と詩情、知的な物語づくりが高く評価され、ヴィアレッジョ賞、カンピエッロ賞、バグッタ賞など多くの文学賞を受賞。謎に包まれたエキセントリックな人物として知られ、その賭博熱は有名であった。1979年にローマで没
中山エツコ[ナカヤマエツコ]
1957年東京生まれ。東京外国語大学卒業。東京大学大学院修士課程修了。ヴェネツィア大学文学部卒業。現在ヴェネツィア大学講師
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感想・レビュー
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yn1951jp
37
野生の目、青白い顔、褐色の髪、半ばあらわな胸、優美なからだ、そして山羊のひづめをもつ娘。かつて地域を支配した一族の老朽した屋敷に一人で住みつき、誰も知らない哀歌を歌う。風雨と月の青白い光の中で、グルーは山羊と交わり体を交換し、若者を死んだ山賊たちの宴の夜へ、過去の戦いへと導く。やがて若者は自らの根源である「母たち」と巡り合い、子牛の角をもった縞模様の男の子が生まれる。作者ランドルフィ自身の故郷の原風景を背景に、月に導かれて夢とうつつの間を行き来する恋の物語。月長石の石言葉は「恋の予感」「純粋な恋」2015/04/29
miroku
19
哀しいけれど、人は幻想には棲めない。ある青年の通過儀礼の物語。不条理で美しく切ない幻想譚。2014/05/04
棕櫚木庵
18
最初は,なんだか不快な家族・親族の集まり,と思ったら山羊の蹄をもった少女が登場して,幻想的恋愛小説になるのかな・・・.やがて,ゴヤのサバトの絵を思わせる集会,でも,なんだか滑稽な感じもあって・・・と,次々に変わっていく雰囲気に翻弄される.あたかも,月が雲にかくれたり輝いたりして月夜の雰囲気が変わるように・・・.主人公の青年は,その変転をなんとなく受け入れているのだけど.そして最後,え,何,この終わり方は.→2024/11/14
rinakko
11
再読。ううむ…。月光に覆われ、妖美で不思議。若者のイニシエーションの旅を描く小説を読むと、この過酷で異様な現象はどう解釈したらいいのだろう…とかついぐるぐる考えて少し戸惑う。都会の大学で学んでいる良家出身のジョバンカルロは、夏を過ごすために戻った田舎で謎めいた山羊娘に出会う。優雅な姿にどこか獰猛なものを秘めた美少女グルーと、内気で初心で詩を書くぎこちない若者ジョバンカルロの寄り添った姿は微笑ましくもあるけれど、まさに通過…という気配を纏って儚い。月に見つめられながら繰り広げられる情景は、怖くて美しかった。2017/06/08
africo
10
初トンマーゾ・ランドルフィ。邦訳はこれと『カフカの父親』しかないけど。山羊の足を持つ美しい少女に魅せられた青年の物語。話の所々に、「あ、コッチの方向行ったらすごく好みなのに」と思うような分岐点はあるが、そちらへは行かず、幻想小説として非常に常識的で、良くも悪くも古典的。とは言え、後半に山羊少女と青年が山に入って、死んだ山賊達が出てきてからは王道におもしろい。ただ描写がこれまた古典詩のような比喩の連続で、そういったものを「美しいっ」とハッとできるほど辛抱強くない読者である自分には中々めんどくさかったのです。2012/08/25