内容説明
北九州の片田舎。幼少期に右手の小指と薬指の半分を失った中学生の界は、学校へ行かず、地元の不良グループとファミレスでたむろする日々。その中で出会った「バリイケとる」男・橘さんに強烈に心酔していく。ある日、東京のラッパーとトラブルを起こしたという橘さんのため、ひとり東京へ向かうことを決意するが―。どこまでも無謀でいつまでも終われない、行き場のない熱を抱えた少年の切実なる暴走劇!第60回文藝賞受賞作。
著者等紹介
小泉綾子[コイズミアヤコ]
1985年、東京都生まれ。10代を九州で過ごす。2022年、「あの子なら死んだよ」で第8回林芙美子文学賞佳作受賞。2023年、本作で第60回文藝賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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青乃108号
154
何か、あっと言う間に読み終えてしまった。俺もかつては中学生だった事はあるが、まだほんの子どもだったなあ。SNS全盛の現代の中学生の鬱屈は俺には理解しずらい部分も多かったのだけども、何の目標も持たない若い男子の、持って行き場のない破裂せんばかりのエネルギーが羨ましくも何とも切ない。若いうちはは二度ない。大いに悩んで苦しめば良い。勿論楽しい事はたくさん見つけて楽しめば良い。失敗しても難度でもリトライ出来るだけの時間はまだまだたっぷり残っているのだから。いやあ羨ましいなあ。俺に残された時間は多分あと残り少ない。2024/08/14
hiace9000
136
片田舎の"ヤンキーあるある"を如実に再現し表出。彼らの短絡性や浅薄性、ある意味わかりやすくて、なのに何考えているかわからない、要はつかみどころのなさ…。だからそれがどやねんと言えばそこまでだが、その無軌道な衝動性と、明らかに"ややズレ"の憧憬と羨望の刹那の源泉を見事に掬い取った慧眼は見事! 作者が10代の頃過ごされた九州での日々と経験がベースにあることは間違いないなく、当時彼らを遠巻きに観て感じ取り、読み取った炯眼にも驚き。無謀で青過ぎる「どーでもええわ」ぶりもまた、文学・文芸となる。どう受け止めようか。2024/02/08
Vakira
68
工業高校に行っている橘先輩カッコイイ。この世界観。設定が面白い。なかなか想像出来ないと思う。中学男子の視点。落ちこぼれ感。不良少年になり切れない感。 出だしは堺君の指の話から。読者はこの異様な話に喰いつくと思う。ムカつく担任の先生をボコる。実は担任の先生はきもい。女子を個人的に呼んでコンドームの仕方を指導する。だから車にロりコンっていたずら書き。していたの見られれていた。授業は弱い者の話。俺の事じゃん。超ムカつく。だから先輩と征伐。僕は英雄になってしまう。2023/12/10
シャコタンブルー
66
半径5メートルしか知らない中学生にとって近所のイケてる高校生は何でも知っている「大人」に思える。その大人にたやすく感化されてのめり込む様子が余りに一途だ。その子供ぽさに比べて同級生の女子が100倍も大人に思える(笑)浅い思考から始まった東京への旅はドン・キホーテのように無茶苦茶だが、そのエネルギーは周りを溶かす程に熱い。握りしめた拳をブンブン振り回すが空振りばかりだ。誰にも当たらない。何も変わらない。でも何かが突き動かされた。無敵の犬の遠吠えが響いてくるような内容だった。2024/01/10
tenori
65
痛快だ。強くなって恐れられ尊敬されたい。単純で純粋な夢と野望も表現の仕方がわからない。自分のことには小心だが、敬愛する先輩のためなら何の根拠もなく突き進める無鉄砲さ加減。田舎の息苦しいほどの閉塞さには不満を持っていながら、周囲が抱く東京への憧は面白くない。そんな少年ヤンキーの暴走劇。その果てに訪れる終末が意味するものは破滅なのか。いや、こいつはしぶとく生きるのだろう。自分と田舎を肯定するために。息をもつかせぬ疾走感と九州弁で綴られた文体が強烈な印象を残す。2024/03/26