出版社内容情報
女の格好をして、私はなぜ美しくなりたいのだろう――磯崎憲一郎氏、激賞! 圧倒的に冷徹な文体の、第56回文藝賞受賞作。
内容説明
メイクやコーディネイト、女性らしい仕草の研究…、美しくなるために努力する大学生の私は、コールセンターのバイトで稼いだ金を美容とデリヘルに費やしていた。やがて私は他人に自分の女装した姿を見てほしいと思うようになる。美しさを他人に認められたい―唯一抱いたその望みが、性をめぐる理不尽な暴力とともに、絶望の頂へと私を導いてゆく。第56回文藝賞受賞作。
著者等紹介
遠野遥[トオノハルカ]
1991年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。2019年、『改良』で第五六回文藝賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
266
第56回文藝賞受賞作ということで読みました。LGBT+女装男子、ジェンダー性の多様性と今時の大学生の心の揺らめきを衝撃的に表現したということでしょうか? 次回作は更に改良されますでしょうか?(笑)【読メエロ部】2019/12/25
遥かなる想い
154
第56回文芸賞。 コールセンターのバイトをしながら、美容に精を出す男の物語である。ひどく 共感できない 投げやりな日々を 冷めた視線で描く。 それにしても 読んでいて 感じる 後味の悪さは何なのだろうか? 気色の悪い若者の自分勝手な内面を 読まされた…そんな作品だった。2020/09/13
いっち
134
大学生の主人公は女装をする。ウィッグを買い直したり、メイクを研究したりとストイック。だが、男を好きなわけではない。美しくなりたいだけ。女装が好き=男好きだと勝手に解釈していた。冒頭の、主人公が小学生時代に男の子から性的な強要をされたことが、男好きにつながったのだろうと思い込んでいた。そう思い込むことで自分なりの物語を作って安心したかったのかもしれない。そんな思い込みは良くないと思った。勝手な解釈は恐ろしいと。主人公の、意識の流れのような、凶器めいた語りをいつまでも聞いていたかった。次の作品を早く読みたい。2019/11/28
てち
130
破局を読んでおもしろかったので本作も読んでみた。主人公は美しさを求め、自分自身の改良に勤しむ。LGBTQ に関して書きたかったのではなく、一人の人間を描きたかったのだと私は感じた。文体は軽く無機質にも感じるが、決して主人公の人間味がないわけではない。これは、在り来りの現代小説ではない。2020/11/08
ケンイチミズバ
122
性同一性障害なのか、第三者に認められたい強い欲求を持つ変態なのか。独特の脳内世界と文才に打ちのめされた。体に感じる違和感、美しさへの憧れ、しかし男性のシンボルが反応する混乱。矛盾が続くメンタルの納得と拒絶の繰り返し。そうして形成された人格はなるほどこうなる。酷いことをされている最中も脳は暴力を許容したり拒絶したりの思考なので読んでいてかき乱された。折れた鼻の心配よりその血でニットが汚れることを気にする思考の不可思議はヒトという生き物の行動の理由付けや納得さえあれば克服してしまう一種の生きる術なのだろうか。2022/01/18