内容説明
組織によって選ばれた、利用価値のある社会的要人の弱みを人工的に作ること、それが鹿島ユリカの「仕事」だった。ある日、彼女は駅の人ごみの中で見知らぬ男から突然、忠告を受ける。「あの男に関わらない方がいい…何というか、化物なんだ」男の名は、木崎―某施設の施設長を名乗る男。不意に鳴り響く部屋の電話、受話器の中から静かに語りかける男の声。「世界はこれから面白くなる。…あなたを派遣した組織の人間に、そう伝えておくがいい…そのホテルから、無事に出られればの話だが」圧倒的に美しく輝く強力な「黒」がユリカを照らした時、彼女の逃亡劇は始まった。
著者等紹介
中村文則[ナカムラフミノリ]
1977年、愛知県生まれ。福島大学卒業。2002年、『銃』で新潮新人賞を受賞してデビュー。04年『遮光』で野間文芸新人賞、05年『土の中の子供』で芥川賞、10年『掏摸』で大江健三郎賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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starbro
171
中村文則の未読の旧作7連続シリーズ第七弾ラストは「王国」です。他にあるのかも知れませんが、中村文則作品で主人公が女性は初めてです。世間一般では「掏摸」の方が評価が高いようですが、女性主人公という新鮮さもあり、個人的には「王国」を推したいと思います。「王国」を読んでいて、初期の村上龍の作品を想い出しました。とりあえず今回の中村文則の未読の旧作7連続シリーズ無事読了し、終了しますが、寡作(今の所、全16作)の作家なので年内に全作品を完読する予定です。新作の『あなたが消えた夜に』も楽しみです。2015/05/17
文庫フリーク@灯れ松明の火
145
『掏摸』と対を成すような表紙に期待は高まる。なぜか浮かぶのは読んだことも無い『月は無慈悲な夜の女王』自らの美貌と肉体をエサに、虚無さえも凶器に変えてVIPを籠絡するユリカ。美人局より遥かにタチの悪い、社会暗部の末端工作員。『掏摸』の西村が生き残ったのは、理不尽な魔王・木崎の余興-僅か2%の僥倖。対してユリカの強かさは、木崎の諧謔味そそるに充分。中村文則さん2冊目だが、リアルな部分と現実味から乖離した部分とのギャップが激しい。これは好悪別れる作家さんだろう。ノワールの味を持たせた狂気の世界。皆川博子さんの→2014/12/08
おしゃべりメガネ
141
関連作品『掏摸』の内容を正直、ほとんど忘れており、コレはコレでと思い手に取りました。予想通り?中村さんテイストがジワジワと出されており、この世界観は誰もが受け入れることができる領域ではないんでしょうね。まだ本作は中村さん作品の中でも、割とわかりやすい雰囲気かなと。しかし、正直結局は「???」になってしまう読後感もある意味、中村さんならではなフィニッシュでした。特別、物語の展開の起伏が激しいワケでもないのに、なぜか先が微妙に気になり、読み続けてしまうのは不思議な感覚です。好きな人は好きなんでしょうね~。2016/01/23
nobby
111
『掏摸』兄妹編という今作、少しの人物リンクに留まったのは肩透かしで個人的には残念…天才スリ師に替えての主人公は行為を持たない娼婦ユリカ。「仕事」として要人達を手玉に取りながら弱みを作る内に、いつぞやか出逢っていた最悪の男 木崎。相変わらず「今日は機嫌がいい」と語る内容は宗教・偉人などが絡み興味深い。反面、その正体や今巻き込まれている状況の説明は曖昧に留まるため、結局ほとんど消化不良なのが残念…それにしても、自分の人生や日常に起きている偶然もしくは必然が、もしかして全て仕組まれた物だとしたら複雑極まりない…2018/04/20
とら
96
『掏摸』の姉妹作。中村さんが代表作と謳う作品だけあり、あとがき等からもどれだけ強い思いが込められているかが分かる。『掏摸』と共通してるのは、主人公には何かが見えるということ。”塔”と”月”。そして運命。運命が握られているとしたらそれからどう生きるか。握られてしまっていたら、そりゃあ死ぬことも考えてしまうわけで、でも、生きる術を見つけようと最善を尽くした。運命に抗った。まあ自分で死ぬのも抗うことになるんだろうが、生きて抗う方を選んだ。二人の主人公、これから良い人生を送れそうだな。いや、送れると良いな。2013/02/26