内容説明
人生のいくつかの場面で途方に暮れて立ちつくしたとき、私を支えてくれた好きな本たちと好きな作家たち。書物と作家をめぐるエッセイ33編。
目次
塩一トンの読書
ユルスナールの小さな白い家
翠さんの本
一葉の辛抱
『インド夜想曲』と分身
3つの地球的感性の交錯
鋭い洞察もつキニャールの作品
魅惑的な「外国語」文学
写真の予感に導かれて
北の深さ、南のやさしさ〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
コットン
81
うしこさんオススメのいろいろな本紹介のエッセイ。本紹介の前に、塩一トンの読書という章で「こうだと思っていた本を読み返してみて、前に読んだときとはすっかり印象が違って、それが何ともうれしいことがある。」というほどの本読みでもある著者を私が初めて知ったのはタブッキの『インド夜想曲』の翻訳からでそのタブッキのことや、谷崎の『細雪』における雪子の平坦な物語性と妙子の高低の多いドラマ性の比較があったりして興味深い。そして時折著者の身内の面白話で和ませてくれ、ただの本紹介で終わらないあたりに親しみが持てます。2014/12/13
kaoru
71
「ひとりの人を理解するまでには、すくなくとも一トンの塩を一緒に舐めなければだめなのよ」姑の言葉で始まるエッセイ集。古典に対してもそうだと須賀さんは綴る。パスカル・キニャ―ルやシンボルスカなど評価は高いが余り一般に知られていない作家の作品評、『細雪』を西洋的な「小説」と日本的な「物語」をないまぜにした作品という評論も見事だ。少女時代に接した『盲目物語』の印象が強かったらしく本著で二度言及している。Ⅲでは神戸の震災後に読んだ中井久夫の『昨日のごとくー災厄の年の記録』、エルマンの『ジェイムス・ジョイス伝』の他→2025/06/18
積読亭くま吉(●´(エ)`●)
67
★★★☆要再読・どの書評もエッセイも、細やかな愛情と柔らかな感性で深く丁寧に語られ、苦手なハズの作家さえ読み直してみようかとさえ思う。再読しても著者の書評の深さが、本編より優れている気がしてくるんじゃなかろうか、そう思ってしまうくらい、心地よく活字が言葉を紡ぎ連ねていく。子どもの頃読んだ「海底二万海里」は著者が言う程夢中になれたっけ?10代の中頃、内容も理解出来ぬまま、ただただ読んだ古典…読み返してみる?フェリーニも古典も、どうして私はあんなにも背伸びシテたんだろう2015/05/07
ネギっ子gen
59
【 ひとりの人を理解するまでには、すくなくとも、一トンの塩を一緒に舐めなければだめなのよ】ミラノで結婚直後に夫と知人の噂話をしていたら、姑から「うれしいことや、かなしいことを、いろいろといっしょに経験するという意味なのよ。塩なんてたくさん使うものではないから、一トンというのはたいへんな量でしょう。それを舐めつくすには、長い長い時間がかかる。/気が遠くなるほど長いことつきあっても、人間はなかなか理解しつくせないもの」と。著者を支えた好きな本や作家を軸に繰り広げられたエッセイ。2003年刊。巻末に初出一覧。⇒2025/06/22
emi
42
自分が学生の頃読んでも、それは筆者が言うところの「素手で本に挑もうとしている」状態で、何ら身にならなかったと思う、須賀敦子さんの書評集。曰く、自身の成長に合わせて新しい襞を見せてくれるのが、すぐれた本であり、古典だと。一人の人を理解するには、塩一トンを消費するほどの時間がかかる。それと同じほどの理解の難しさを感じるのが古典。その主張をふまえて紹介される数々の作品は、どれも一筋縄ではいかない。特に翻訳からアイデンティティについての考察には唸った。書評で知ったつもりにならず実際に読む。塩一トンの時間をかけて。2015/04/30