内容説明
とほうもない夢を、現実とひきかえに生きてしまったヴェネツィアの悲しみ。その悲しみに静かに寄り添う作家のまなざしを追って、記憶の街への旅はつづく。撮り下ろしの写真と、書き下ろしエッセイでたどる、須賀敦子の軌跡第二作。
目次
1 島へ
2 橋づくし、小路めぐり
3 ゲット・ツアー
4 ザッテレの河岸
5 リド島のひと夏
6 ラグーナを渡って
7 ヴェネツィアの友人
8 陸地へ
著者等紹介
大竹昭子[オオタケアキコ]
1950年東京生まれ。上智大学文学部卒業。1979年から81年までニューヨークに滞在、執筆活動を開始するとともに、写真撮影も手がける
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
U
32
この間よんでいた、全集の作品も登場。ヴェネツィアは水が印象的な街だ。「あのやわらかで凛とした、しかも論理をちゃんと内に秘めた須賀の文体は、その経験と密接に結びついているはずである。ただ美しいだけの文章ではない。言葉による表現がどこまで可能なのかを、さまざまな言語を学びながら真剣に考えた人ならではのものなのだ。」大竹さんもなかなかの美文。力説すてきです。2015/08/02
内島菫
19
今回地図で再確認したヴェネツィアが頼りないほど小さな島々からなり、さらにそれらが水路の網目の隙間であることに驚く。自動車や自転車が禁止されており、地上での移動は徒歩という(地元の人は入り組んだ路地を知り尽くしていることもあり、歩くというより小走りに近いスピードだという)、今でも人の身体のリズムで町全体が時を刻んでいるかのよう。そうした身体性と二重写しになるように須賀敦子の文章の中のヴェネツィアがかぶさり、本書の中でのヴェネツィアでの時間は(そしてもし私が今後ヴェネツィアを訪れることがあればその時間も)、2020/05/04
kawa
13
旅で訪ねた中で、最も印象的だった街ヴェネツイア。須賀敦子さんの作品を引きながらの紀行文。地図を見ながら、秀逸な写真や文章を追うと、自ら再訪している気分に浸れる。2017/06/21
あ げ こ
12
リドで過ごした夏の事。別離の哀しみ。寄る辺のない不安。うまくいかなさ、時間に逆らう事なく、待つと言う事の難しさ。トルチェッロ、聖母像の事。確かめ、確かめ、頷く。寂しく、だが、強い。…思い出す。淡く蘇る。或いは、ゲットの事。「ザッテレの河岸で」の事。受難の歴史、苦しみを塗り込んだような、影の深さ。寄り添うよう、心を止め、大切に掬い上げていた事。ぼんやりと、蘇って来る。滲み、満ちる思いもまた。捉えた瞬間の曖昧さを見過ごせず、解れるまで挑み続けていた、幾つもの衝動と感覚もまた。今一度読み、眺め、思い、反芻する。2016/02/20
みそさざえ
10
これを読むと「ヴェネチアの宿」だけでなく、いろいろなところでヴェネチアが引用されていたのだとわかる。私も何度か足を運んでいる場所だが、須賀さんは、時をさかのぼり、ときには、自分にひきつけながら、全く違う角度でこの街をとらえている。大竹昭子さんの写真や観光客の少ない冬のヴェネチアのをとらえた文章もよい。2018/12/30