感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
カナン
80
あえて何が起こったかという部分には一切触れない、「八月六日上々天気」。長野女史と云えば美しい少年や青年たちだけれど、本作では年頃の少女の視線で進行していく。控え目な中に立ち昇る高貴で甘い香り。素直だからこそ溢れる清廉さ。翳りゆく国の腐敗臭に似た匂い。確実に進んでいく現実と変化していく激動の刻。なに気ない小物や甘味が、この後を知る読者の胸を締め付ける。あの、八月六日の朝は、雲ひとつなく、眩しい日差しが若葉や水面の上をきらきらと輝かせていた。あの朝は正に、太陽の光が降り注ぐ、真っ青な夏の空の日でありました。2014/08/08
rico
74
一人の女性の昭和16年冬から20年8月6日までの日々。まさに戦時下。でもそこにも娘らしい喜びがある。モンペの裏地を華やかなものにしたり、小さく刺繍をしてしてみたり。友との他愛ない会話、成長する従弟、その担任教師との結婚。冬の夕暮れの小石川、桜の咲く寺、三保浦の沙地。美しい言葉で綴られる風景、その中ですごす日々のなんと愛おしいことだろう。物語はあの夏の朝、唐突に終わる。あの日破壊され焼き尽くされた、多くの命や暮しのように。どこで間違えたのか。声高には語られない重い問いへの答えを、私たちはまだ持ってはいない。2019/08/05
優希
74
長野さんにしては珍しい女性目線の物語。8月6日とありますが、その日が直接描かれるわけではなく、軍人の妻としてどのような日常を送っているのかが描かれているのが印象的でした。直に描かれないからこそ、ささやかな幸せも見ることができました。戦争を描きながらも日常の中に溶け込んでいるような雰囲気が怖さすら感じさせます。2018/08/18
青蓮
68
数日遅れてしまったけれど、季節なので再読。長野作品にはやや珍しく少女目線で綴られた戦時中の物語。珠紀は従兄弟の史郎を弟のように可愛がっていたけれど、彼が長ずるにつれて実はそこには恋愛のそれも幽かに混じっていたように私は感じました。史郎は珠紀のことが好きだったと思うと凄く切ないです。直接の描写がない故に8月6日、あの日の事が、想像だけれど胸に迫ってきます。史郎も、市岡も戻らないことがとても悲しいです。2015/08/10
ままこ
62
勝気で乙女らしいおしゃれが好きな珠紀。彼女を『お姉さま』と慕う従兄弟の史郎。その時々の珠紀の心情が凛とした文章で綴られている。幼かった者が、痛ましい早さで生い立たなければいけなかった時代。生々しい戦火の様子はあまり書かれてないが幻想的な場面を通して儚さと哀しみがぐっと伝わってくる。どうしようもない胸騒ぎを感じさせる情景描写がとても切ないラスト。2018/08/09
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