内容説明
ぼくにはわからない。その夏のあいだ碧夏がどこに連れ去られ、彼の身に何が起こったのか。海藍地に広がる腐爛したネットワーク。南風が運んでくる少年たちの死体。長野まゆみのニュー・ワールド。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
70
グロテスクであるにも関わらず、美しい作品でした。曖昧な夢物語のようで、謎の多さが気だるい夏の午後にしっくりきます。湿り気、腐った果物の熟れた腐った匂い、多くの死体、淫靡な戯れを見せる少年たちが織りなす世界は腐敗した道徳に満ちあふれているようでした。それなのにクラシカルさを感じさせる上品な文章さを感じさせます。体にねっとりとまとわりつくような熱気があるのに惹かれるものがありました。汚れた異国にいるようで、気分が悪くなってもおかしくないのに世界観に浸れるのはまさに長野まゆみマジックと言っていいでしょう。2015/08/14
青蓮
55
暑くて気怠い夏の午後に読み返したくなる本。何度も繰り返し読んでますが、謎が多い物語です。生暖かい風に乗って漂う腐敗臭、幾つもの死体、湿気と泥の臭い、淫靡に戯れる少年達。グロテスクな描写が多いものの、クラシック映画を見ているような美しさを感じます。読み手を選びそうな作品ですが、お気に入りの作品。また来年の夏に再読したい。2015/08/08
青蓮
23
夏になると読みたくなる1冊。発売当初から、何度再読したか解らない程、繰り返し読んでます。(初版は1993年)東南アジアを思わせる町を舞台に繰り広げられる、少年たちの淫靡な夏の物語。夏の暑さと肌にまとわりつく湿気、生き物の腐乱と異臭がリアルに感じられる描写でも不思議と美しく思ってしまう。読んでいる最中はまるでクラシック映画を見ているかのようでした。ビーシアはクーランのことを好きだったんだろうなと勝手に推測しています。また来年の夏に読みたい。2014/07/31
うららん
12
色々衝撃的な話2016/09/02
凪織
11
時折ストーリーのある長い夢をみることがある。物語はあるのに些細な部分は曖昧で辻褄が合わない。この作品はそんな雰囲気。夏の茹だるような湿り気と熟れすぎた果実の甘ったるいにおい、それから水の腐ったにおいが漂ってる。倫理観などひっくり返って見る影もない。作中にあったオイルサーディンの罐詰の件なんかとても気持ち悪い。こんな責め方があるのかと驚きさえ覚えるほど。だがそれを紡ぐ文章は美しく上品ささえ感じさせ、ついつい読み進めてしまう。日本ではないどこかの異国で、鈷藍は今日も淡々と生きているのかもしれない。2015/05/25