感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
106
何度目かの再読です。年を取って読むと印象が異なってきます。最近の若い人は読まなくなっているのかもしれません。すじらしい筋というのはないのですが読んでいると月山をさまよっているような気がしてきます。霊界と現世のさかいをさまよっているような感じをあたえてくれるます。月山には一度行ったことがあり、森さんが過ごしたというお寺にもいきました。そこで新井満さんの講演を聞いたことも思い出しました。2023/01/02
NAO
60
主人公が月山に惹かれたのは、そこが死に近い場所だったからだろうか。知らず知らず死を求めていた私は、その死者の山近くの寺で、蚕のように和紙の繭にくるまれて冬を越す。 蚕は繭の中で天上の夢を見るというが、彼が見たのは、生々しい村の生活だった。それでも、生のただ中で、死は不意に姿を現すこともある。月山が、見たいときにはその姿をなかなか現さず、思ってもいないときにその全貌を見せるように。そして、「いつかここに来てこうして眺めたことがあるような気が」するということが前世を見たように思うことなのだろうかと作者はいう。2024/11/10
白のヒメ
51
辺りの山々を見渡せば、四季の移りはあるけれど、未来永劫今と変わらぬ景色があるのだろう。雪に覆われた凍り付いた山々は、時間とともにいつか黒い土を見せはじめ、また飽きもせず緑と命の芽吹きを抱く。そのメビウスの輪のような永劫の景色に「生」を見るのか「死」を見るのかは、川の泡沫のような存在の人間側の問題なのだ。作者は61歳で芥川賞を取ったという。名前だけは知っていたけれど、作品は読んだことがなかった。非常に老成された作品。2016/02/16
たま
44
1974年に芥川賞を受賞。昔読んだときは、雪に閉ざされた村の習俗を描いた民俗誌という印象だった。今回読み直し、一地方の習俗に止まらず、生も死も織り込んだ小宇宙が丸ごと差し出されていると感じた。森敦が月山の麓の村に滞在したのは50年頃らしい。電気とバスが通じ農地解放に密造酒、税務署と戦後の世相が描かれるが、無礼講の酩酊に吹き上げる吹雪が時間の流れと幽明の境を揺るがせる。物事を掴みかねているような独特の語りが効果的だが、対象と距離を取るこの語りのせいで読者もつねに外部の観察者の立場に置かれている感もある。 2022/01/25
ふう
31
三十数年ぶりの再読。読み始めると、新井満さんの澄み渡る歌声が響いてきました。そして、冬の夜空に凍ったように輝く月に照らされる蒼い山が浮かんできました。読み進めるうちに歌声は消えて、物語の世界へ。町の便利さや情報から隔離され、いったい何時代だろうと思うような人里を舞台に、暗く厳しい冬の暮らしが描かれています。陰湿にも見え、あっけらかんとしているようにも見え、宗教のおどろおどろした雰囲気も感じられて、不思議な世界観でした。命まで雪に埋もれてしまいそうな冬の深さだけに、春の訪れを待つ気持がとても明るく美しい…。2013/01/12
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