出版社内容情報
河野の歌が
愛唱され続けるのは、
それが読者一人ひとりに
向けられた
私的なメッセージに
思えるからではないだろうか。
目次
逆立ちしておまへがおれを眺めてた たつた一度きりのあの夏のこと
青林檎与へしことを唯一の積極として別れ来にけり
たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか
夕闇の桜花の記憶と重なりてはじめて聴きし日の君が血のおと
ブラウスの中まで明かるき初夏の日にけぶれるごときわが乳房あり
しんしんとひとすぢ続く蝉のこゑ産みたる後の薄明に聴こゆ
君は今さき水たまりをまたぎしかわが磨く匙のふと暗みたり
土鳩はどどつぽどどつぽ茨咲く野はねむたくてどどつぽどどつぽ
たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏き器を近江と言へり
君を打ち子を打ち灼けるごとき掌よざんざんばらんと髪とき眠る〔ほか〕
著者等紹介
永田淳[ナガタジュン]
1973年生まれ。同志社大学文学部英文学科卒業。1985年「塔」短歌会入会。同会編集委員を経て、現在「塔」短歌会選者。現代歌人集会理事、現代歌人協会会員。京都造形芸術大学非常勤講師。出版社・青磁社社主(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kaoru
60
河野裕子さんが亡くなられてから今年で11年。裕子さんの歌50首に息子淳さんが解説を附し「全身歌人」と呼ばれた彼女の足跡を辿る。夫永田和宏さんにとっては無二の人であったが淳さんの筆致は冷静に母と言う歌人を捉えている。《たっぷりと真水を抱きてしづもれる昏き器を近江と言へり》、フェミニズムに挑戦するごとき《良妻であること何で悪かろか日向の赤まま扱きて歩む》、そして病を得てからの諦念と哀しみに満ちた数々の歌。オノマトペを多く使用し日本語にしかない表現を試みた彼女は忘れ去られることはないだろう。もっと長生きして⇒2021/08/13
てん06
16
河野裕子の代表歌50首を、息子で歌人の永田淳氏が解説する。見開きで1首。こうしてみると、確かに年代によって歌の雰囲気が変わっているのがわかり面白い。五七五七七の定型を破る歌が多いが、ちょっと複雑な緊張感があり私は好きだ。たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏き器を近江と言へり2020/06/18
双海(ふたみ)
7
好きな歌は変わらずに好き。「たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏き器を近江と言へり」・「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」・「借りものの言葉で詠へぬ齢(とし)となりいよいよ平明な言葉を選ぶ」2023/02/28
ハルト
5
読了:◎ 前衛短歌に影響を受けていた前期、夫、子を得ての幸福感を歌った中期、遠慮なく大胆に歌の型からはずれたる後期に、死期を悟り感情迸るまま詠んだ最晩年と、河野裕子の歌のうつろいがよくわかる。歌人の息子である永田淳が解説を書いており、歌の遍歴のみならず子の目から見た母という姿も垣間見れてよかった。好きだったのは第一歌集から第五歌集あたりの、どこか大きなものを抱え詠うような、おおらかさとやわらかさと真卒さが合わさったような時期でした。2020/07/09
門哉 彗遙
4
歌ってたくさんの人の目にふれ、読み継がれなければ意味がないのかもしれない。そして解説本が出れば出るほど浸透していくと思う。河野裕子さんは夫や息子にたくさんの書物で紐解かれてとても幸せだなと思う。しかし河野裕子さんは、生き方そのものが短歌だ。若い時は前衛的な衝撃的な歌が多く、そして結婚し子供を産むと生活を詠む歌が多くなっていき、病魔に襲われてからはその苦悩や家族への思い、2025/04/02
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