出版社内容情報
沈みゆく列島で、“界隈”は沸騰する――。
あるアイドルグループの運営に参画することになった、家族と離れて暮らす男。内向的で繊細な気質ゆえ積み重なる心労を癒やしたい大学生。仲間と楽しく舞台俳優を応援していたが、とある報道で状況が一変する女。ファンダム経済を仕掛ける側、のめり込む側、かつてのめり込んでいた側――世代も立場も異なる3つの視点から、人の心を動かす“物語”の功罪を炙り出す。
「神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」
内容説明
久保田慶彦(47)レコード会社勤務。とある能力を買われ、アイドルグループ運営に参画することに。武藤澄香(19)留学を志す大学生。内向的な気質に悩むうち、一人のアイドルに出会う。隈川絢子(35)契約社員。舞台俳優を熱烈に応援中だが、ある報道で状況が一変する。ファンダム経済を築く者、のめり込む者、のめり込んでいた者…三者三様の視点で浮かび上がる、人間の心を動かす“物語”の功罪。
著者等紹介
朝井リョウ[アサイリョウ]
1989年、岐阜県生まれ。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。『何者』で直木賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞、『正欲』で柴田錬三郎賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
196
朝井 リョウは、新作をコンスタントに読んでいる作家です。 著者15周年記念作品は、押し活家族小説でした。新興宗教も押し活も同類、資金力があって洗脳が続いている限り、幸福感は継続するんでしょうね。どちらかが途切れると地獄が待っています(笑) https://info.nikkeibp.co.jp/books/campaign/121045/2025/09/19
湯湖
56
ファンダム経済という単語すら知らなかった時から、「ヲタクが経済を回している」と思っていた。今は「推し活」というワードでカジュアル感満載だけど、ここまで来ると洗脳です。でも同好の士で集まるのは、楽しいのです!特に、普段の自分の居場所に違和感があったりすると、そっちに傾倒してしまうのも分かります!自分の場所の居心地だとか、話し相手の有無だとか、気づかないふりも出来るから敢えて向かい合おうとしない現実を、エッセイとは別人格の朝井氏が容赦なく抉って来た。最後、うやむやで終わったけど、親子の邂逅はあったのだろうか。2025/09/21
桜もち 太郎
31
読み始めは霞んでぼやけていた内容が、物語が進みにつれて解像度が上がっていく。「ファンダム」とは押し活する人たちを中心とするコミュニティだ。それを動かす搾取する側の話でもある。搾取する側、される側、もとされていた側の3人の物語だが、それにしてもその界隈のすごいこと。実際に起こっていることなんだろうな。押しのためなら全てをなげうち、すっからかんになるまで戦うなんて、自分には到底できない。その奥底にあるのは、孤独であったり淋しさであったりするのかな。人それぞれだと思うが、それは3人の共通するところだった。→2025/09/15
みっこ
30
ドルオタでサバ番オタクの朝井リョウさんが書いた推し活小説。解像度がエグい。奇しくも半年ほど前に人生初の推しができたところでして…それはまさに、グループの物語がピタッと自分にハマったから。出てくる話が全部自分のことのようで、ずっとゾワゾワ。澄香ちゃんとmbtiほぼ同じで、その生きづらさもよくわかる。視野を広げること。あえて視野を狭めること。どっちが幸せなんだろうね。遠くに旗が立っている感覚、それが生きる希望になるのもよくわかる。推しは希望だけど、決して依存してはいけない。うまく付き合っていきたい。2025/09/10
Kanako
26
現代を鋭く切り取る作家、朝井さんならではの作品でした。一行目からもう刺さる。推し活を巡る巨大なファンダム経済の観点から、現代日本人の耐えがたい空虚を描き取っている。自分含め、こんな空虚を抱えて、正解も分からないまま何かにすがっている人ばかりって考えたら怖いな。「若者を見つめる中年世代」の描き方もうまく、切なくもあった。メガチャーチに熱狂する人々を遠巻きに見つめることになりそうだけど、それはそれで時代に置いていかれる人間になるのかという恐ろしさ。2025/09/15