内容説明
知識を超える。過去と向き合い、心で感じる写真集。戦後50年記念国際共同出版。94年ドイツコダック賞・出版美術協会賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
内島菫
22
W.G.ゼーバルトの『アウステルリッツ』にも使用されている、テレージエンシュタット収容所・小要塞の管理室と囚人カードの写真を確認したくて手にした。まさに「天井まで届く開架の棚に」恐ろしいほど整然と入れられたカードの束を見ていると、本書の解説で紹介されているプリーモ・レーヴィの回想にもあるような、「愚劣でグロテスク」なまでの秩序の中で、ナチスによるユダヤ人やジプシー、ロシア兵捕虜等の大虐殺が行われたことが、沈黙の中に今も普通の顔をしてそこにあるように思われぞっとする。2016/02/11
ふう
13
死の匂い、絶望という空気、そして沈黙という叫びが支配する写真集。これでもかと重苦しい気持ちにさせる解説を経て静かなモノクロの写真が続く。ユダヤの星の影が落ちる石畳、鎮魂の塔が佇むようなレンガ工場。おびただしい数の靴やスプーン。どの写真からもここで死に怯えた日々を過ごした人々が浮かび上がる。人間はこうも残酷になれると思うと本当に怖い。本を閉じ、さて明後日歯医者だっけ?とか夕飯なにしようかななんてすぐに考えられる自分が恐ろしい。人は忘れる生き物だが絶対忘れてはいけないことがある。その一つがこの写真の中にある。2019/10/01
いやしの本棚
6
アウシュビッツ、ダッハウなど、1987年から1993年の間に撮影された、ドイツ強制収容所跡の写真集。きちんと整頓された図書室のようなところを撮った一枚は、巻末の説明を確認すると、管理室と囚人カードを撮影したもの。収容所長官の住み心地の良さそうな邸宅の写真。焼却所の洗面台の白さ。ガス室つきトラックの終着点、その森の沈黙…。戦争のことは、それを経験しなかった人間が、軽々に語れない気がしているのだけど、この本は、解説も最小限で、ただ静かな写真を見せるだけのもので、そこに意味があるのだろうと思った。 2016/01/31
ウメ
5
生半可な気持ちで手にとっては駄目な本だった。写真の持つ力。無音なのにそこかしこから声が聞こえる。もしかしたら私は、尊厳と人格を破壊されガス室に押し込まれていたかもしれない。もしかしたら私は、人間が詰め込まれたガス室に平然とガスを撒いていたかもしれない。2020/03/14
ルナティック
2
今回2度目です。う~ん、前回は収容所の知識が今ほど無かったから、深さをちゃんと感じることができなかった。怖い写真だよね。何もない原っぱ、森や林、低木・・・恐ろしい。ここで何が行なわれたかは、その痕跡あるなしに関わらず背筋を寒くする。写真と文字、とキッチリ分けられているのでちょっと扱い難い感はあるが、それでも解説は丁寧だ。トレブリンカ。怖い。2019/01/18