内容説明
近代日本のみならず現代においても、人びとの「いのち」と暮らしに大きな影をおとす戦争と軍隊、そして天皇制。兵士や地域民衆、また君主制のあり方という視点から、共振する社会と政治の関係を問い直し、戦争と軍隊をめぐる東アジアの同時代史へと視界をひらく。
目次
現代歴史学と私たちの課題
第1部 身体と記憶の兵士論(国府台陸軍病院における「公病」患者たち―昭和一四年度・一八年度における「精神分裂病」患者の恩給策定状況;戦傷/戦病の差異に見る「傷痍軍人」;日本兵たちの「慰安所」―回想録に見る現場;新中国で戦犯となった日本人の加害認識―供述書と回想録との落差を通じて)
第2部 軍隊・戦争をめぐる政治文化の諸相(軍隊と紙芝居;南次郎総督と新体制;講和後の基地反対運動―長野県・有明における自衛隊演習地化問題;戦後地域社会の軍事化と自治体・基地労働者;メディア言説における韓国の対日認識と歴史教科書問題)
第3部 天皇制の政治社会史(東條英機内閣期における戦争指導と御前会議;昭和戦時期の皇室財政―制度と実態;国会開会式と天皇―帝国憲法と日本国憲法の連続と断絶)
戦後歴史学と軍事史研究
著者等紹介
吉田裕[ヨシダユタカ]
一橋大学名誉教授、東京大空襲・戦災資料センター館長。1954年生まれ、一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
小鈴
22
張宏波、4章「新中国で戦犯となった日本人の加害意識ーー供述書と回想録の落差を通じて」98-135。中帰連のデータ分析も進み始めているのだと実感した論文です。中国側が元戦犯の供述書をすべて公開したことで研究が進んでいる(2005年に左官クラスの供述、2015,2018にすべての供述書)。その結果、帰国後の元戦犯達の書いた回想録と、当時の供述書が比較できるようになった。戦犯によってはあまり食い違いのない人と、食い違いのある人がいて、その違いがどこから生まれているのか比較している。2022/01/15
小鈴
17
この本は吉田裕教授の一橋大学退官記念としてゼミ生が集まり最新の研究成果を持ち寄りまとめた本。そのため執筆者はすべて吉田裕門下である。目次を見ると、軍事史研究の幅の広さを知ることができるだろう。終章の吉田裕「戦後史学と軍事史研究」の変遷を知ることができる。戦争体験の根深さから平和主義が強固にあったからこその史学研究の難しさがあった。しかし、現在は戦争体験世代が減少に伴い平和主義が空洞化し、新たなフェーズに入っているという。「戦争体験」に根ざした文化が崩れる中、軍事史研究の存在意義が今まさに問われている。2022/01/15
小鈴
16
平井和子,第3章「日本兵たちの『慰安所』ーーー回想録に見る現場」64-97。慰安婦問題は被害者の視点からや制度論が多い中、平井和子さんは日本兵の視点からの多角的に分析している稀有な存在だ。「慰安婦問題」は金学順さんカムアウトから始まるが、長い沈黙のあとのカムアウトに衝撃を受けた日本兵は多いという。あのときの自分の行為はいったいなんだったのかと振り返る契機となり、回想録が増えたいう。加害/被害の枠組みでは描ききれない日本兵の多様な姿を分析する。必見です!2022/01/20
Masatoshi Oyu
4
戦争、軍隊をめぐる政治領域の問題を社会から捉えなおすと同時に、それが社会やその基礎にどのような影響を与えているか。この点印象に残ったのは、まず兵士「に対する」性暴力。慰安所通いの強制だけでなく、初年兵を「女役」とする。そういうトラウマを抱えて復員した兵士が大勢いるとしたら、それは確かに社会に大きな影響を与えたろう。戦後も基地問題など、社会と戦争、軍隊をめぐる問題はあるが、現在は沖縄など一部地域に集約されており、見えにくくなっている。逆説的に、こうした視点で意識的に考える必要が高まっているのかも。2023/11/15