出版社内容情報
時は天平の世(奈良時代)、天然痘が大流行した平城京を舞台に、戸籍のない浮浪児たちと、異国の地(中国の唐)からやってきた袁晋卿が出会う。
それぞれに生きづらさを抱える彼らの人間模様、深まる新羅と日本の対立、唐から帰国した知識人たちの苦悩を描く。
月刊「潮」の連載小説が待望の単行本化。
【目次】
内容説明
八世紀の奈良、玄〓と吉備真備の企みによって海を渡ってきた男がいた。その名は袁晋卿。遣唐使に伴われて唐の長安から来朝し、押し寄せる不安と後悔の念にかられながら孤独な生活を余儀なくされていた晋卿は、浮浪児たちと出会い、心を通わせていく。彼はなぜ日本に連れてこられたのか。言葉も通じない唐人と戸籍のない子どもたち、それぞれが争いの渦の中でもがき生きる―。彼らの人間模様を、稀代の作家が精緻な筆致で描く、衝撃のデビュー作『孤鷹の天』へと続く物語。
著者等紹介
澤田瞳子[サワダトウコ]
1977年、京都府生まれ。同志社大学大学院博士前期課程修了。2010年『孤鷹の天』でデビュー。同作で中山義秀文学賞を受賞。13年『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞、16年『若冲』で親鸞賞、20年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、21年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
138
長安在住の青年を帰国する遣唐使が強引に日本へ連れ帰る冒頭は、北朝鮮による日本人拉致事件を連想させる。理由もわからず肉親と引き離され、異国に放り出されるとは究極の不条理なのだから。しかし唐語話者の多い奈良の都で、権力者から浮浪児に至るまで多くの出会いを経て帰国を諦めてしまうプロセスは「人とは慣れる生き物」と思わされる。制度も法律も未熟で宗教と政治が渾然一体となった時代情勢に翻弄されながら、逞しく生きて行こうと決意する成長小説と読める。ただ最後に明かされる拉致の理由は、外交絡みとはいえ今ひとつ納得し難かった。2025/10/07
hiace9000
120
平城京が舞台の今作。知識人として大陸から招聘されるも言葉の通じぬ孤独と渡来の後悔に苛まれる異邦人・袁晋郷。戸籍も持たず社会の中で置き去りにされ、明日をも知れぬ身の浮浪児・狭虫、狗尾、駒売ら。いずれも寄る辺なき者たちの葛藤と生き様をありありと眼前に蘇らせ描く。あらゆる時代に遷移しても、いつもながらの精妙なる人物造形と細やかな描写は澤田筆の真骨頂。寧楽(奈良)の京から現代を照射し、今も昔も変わらぬ世の矛盾と人間の本質に迫る。この地に生きる意味を見出し、自らの思考と境涯の地平を拓く清々しさを「梧桐」が象徴する。2025/09/23
pohcho
65
平城京時代の奈良。日本にきた唐人・晋卿はいきなり浮浪児に襲われる。その後与えられた屋敷を出て、権力者・藤原宇合の屋敷に居候するが・・。晋卿という人物は頑固で難しいところがあるが、気持ちの優しい面もあり。異邦人である彼のさまざまな感慨がとても興味深く感じられた。また、後半は殺されかかったり謎が明らかになったり。物語に起伏があって読ませる。史実を知っていればもっと楽しめたかもしれないが、知らなくても十分楽しめた。「市井の一人であることこそが生きる意味」という晋卿の考えに共感。誠実な狭虫には幸せになってほしい。2025/09/18
がらくたどん
58
8世紀前半、大唐に逗留していた東海の新興国日本の遣使団の帰国船に一人の若い唐人の姿があった。長安で出会ったやたら押しの強い学僧玄昉の書籍収集を手伝ううちに「つい」異国に行ってみたくなった自分探し中のモラトリアム青年は名を袁晋卿と言う。取り柄はない。胆力もない。野望なんてある訳もない。ただ不思議な心の柔らかさを持った青年が居場所を求めてようやく国としての骨格を整えた日本の都・奈良を彷徨う。飢餓・疫病・権力抗争・漂う諦念・不可解な受容。自らも浮遊し迷う異国の瞳が映す世界は、苛烈な無常と優しい抱擁に満ちていた。2025/10/20
shikashika555
34
澤田瞳子らしい若者の屈託と成長をテーマにした物語。 聖武天皇治める寧楽の都に、望んだわけでもないのに遣唐使船になぜか同乗してきてしまった主人公。 その彼をリクルート?したのがかの玄昉であるので、もしかして頭塔の建設にも絡めた宗教内闘争の話かと期待したのだけれどそうではなかった。 主人公とその周辺人物たちの、屈託と差別に絡む感情描写がひとつの見どころだと感じる。 現代においても他国人に対する偏見やヘイトは溢れており、それらの感情の由来と実社会での折り合いのつけ方は読み手にも一考を促してくるようだ。2025/10/27
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