出版社内容情報
数々の文学賞を受賞した物語の匠が、一瞬にして日常から幻想的な非日常の世界へと連れていってくれる、珠玉の短編11編を収録。
常に家族写真に写っていた火鉢をきっかけに、家族の出生の秘密を探っていた主人公は、いつの間にか自らがその古い火鉢のなかに入り込んでいた(「旅する火鉢」)。還暦を迎え、これまでの秩序、精神を崩したいと願う主人公。血のような赤い椅子を得て、最高の快楽を古い記憶とともに夢想する(「ポンペイアンレッド」)。困っているセミを助けようとするも突如仇討ちされ、過去の男への加害を思い出す(「散歩」)。幼少期から青春時代に愛した、男たちとの煌めくような記憶。年老いた主人公は彼らの記憶を養分として、トマトを作り続ける(「私が愛したトマト」)。不治の病で入院している少女は、医者から一匹の蚕を贈られる。蚕は美しい絹を吐き出すと、自らの宿命を知っていたかのようい生を終え……(「蚕起食桑──かいこおきてくわをはむ」)。楽して生きることばかり考えている、どうしようもない若者・翔は、東北のある町で気のいい女性に会って徐々に変わっていき、大地震の日、女性の家族を助けようと危険のなかへ向かっていく(「翔の魔法」)。子どもの頃、心にひっかかっていた出来事は、大人になり人生に迷ったとき思わぬ形で幼馴染と再開したことにより、すべてが希望へと変わっていく(「かぐや姫」)。
表題作「私が愛したトマト」をはじめ、幻想と郷愁、現実と非現実、人とモノ、過去と未来といった日常の境界線があいまいになっていく不思議な世界を美しい文で描く。
内容説明
家族の出生の秘密を探っていた主人公が、いつの間にか古い火鉢のなかへ入り込んでいく「旅する火鉢」、オーロラ見物と白夜体験のためにアラスカへ行った作家の「わたし」が謎めいた男性と出会い、極地の真実を知る「夢の罠」、年老いた主人公が過去の男たちの記憶を養分として、トマトを作り続ける「私が愛したトマト」ほか珠玉の短編11編を収録。
著者等紹介
〓樹のぶ子[タカギノブコ]
1946年山口県生まれ。東京女子大学短期大学部卒業。84年「光抱く友よ」で芥川賞、94年『蔦燃』で島清恋愛文学賞、95年『水脈』で女流文学賞、99年『透光の樹』で谷崎潤一郎賞、2006年『HOKKAI』で芸術選奨文部科学大臣賞、10年「トモスイ」で川端康成文学賞、『小説伊勢物語 業平』で20年に泉鏡花文学賞、21年に毎日芸術賞を受賞。09年紫綬褒章受章。18年文化功労者に選出(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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