内容説明
一冊の古い日記を見つけた。読む権利など、私にはない。でも、どうしようもなく惹きつけられて、わたしはその日記を開いてしまった。ホロコーストに関わった男の日記が次第にエマを苦しめはじめ、拒食症はどんどん悪化していく…。１４もの海外文学賞を受賞した衝撃の物語。
著者等紹介
モラ，ジャン［モラ，ジャン］［Ｍｏｌｌａ，Ｊｅａｎ］
１９５８年、モロッコのウジダ生まれ。フランスのトゥールとポワティエで文学を学び、ついで観光学を学ぶ。その後、養蜂家、クラシックギター講師、博物館ガイドの仕事などを経て、文学の教師となる。ヴィエンヌ県および北フランスの多くの学校で教鞭をとったあと、現在はポワティエのＺＥＰ（「教育優先地区」の略号で、教育上問題の多い地域を優先的に支援する制度に基づくもの）の中学校教師。執筆活動を始めたのは２０００年で、三男が誕生する直前のことだった。『ジャック・デロシュの日記―隠されたホロコースト』でソルシエール賞（Ｐｒｉｘ Ｓｏｒｃｉ´ｅｒｅｓ）ほか、十以上もの賞を受賞
横川晶子［ヨコカワアキコ］
九州大学大学院及び学習院大学大学院博士課程修了、フランス近代文学専攻。１９９１年から１９９２年までフランス政府給費留学生としてパリ第四大学博士課程に在籍、ＤＥＡ取得。現在、学習院大学等非常勤講師（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
116
拒食症の少女が、偶然手にした日記を読み始めることで、悲惨な歴史を知ることになる。重く悲しい内容で、読み通すには覚悟が必要だと思う。私が今年読んだ小説の中でベストの一つ。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』に似たところがある。少年少女の傷つきやすい心が、大人の世界の欺瞞を暴き出すのだ。拒食症とホロコーストを結びつけた作者の感性は素晴らしい。主人公の少女エマは自分の心と体の痛みを通して、この世界の痛みと苦しみを自分の体に刻み込む。それは身を引き裂くような辛い行為だが、生きるために必要なのだろう。2016/11/19
chimako
72
何とも気持ちが重くなる一冊だった。語り手は拒食症の女の子エマ。大好きだった祖母が死の床でうなされ口走った言葉「ゾビブル」。その一言がエマの心を捉え離さなくなる。ゾビブル……それはポーランドのユダヤ人大量虐殺処刑場。祖母はそこで何をしていたのか。どうやって生き延びたのか。祖母の遺品整理で見つけた緑の表紙の手帳。そこに書かれているのはゾビブルでのおぞましい行為。そしてその日記を書いたのは……。驚きの結末、エマがどうしても許せなかったこと。児童書なのだがこれは今私たちが読むのに相応しいと感じる。2014/12/03
Nobuko Hashimoto
30
思春期のピュア過ぎる精神性とそこからくる不安定さを、尊敬する親族の隠しておきたい過去に絡めてミステリアスなストーリーにした作品。子世代が親世代の戦争中の行動を問い質し、責任をうやむやにさせない動きが起こった60年代末から、さらに1世代経って孫が祖父母世代の過去を追及する時代になったのだな。ところで、主人公の摂食障害を話の中心に据えているが、必要な設定だろうか。そうした状態にある少女だから、本作のような結末になったのか？ 単にティーン向け作品だから思春期の悩みも合体させたのか？ 装丁もそぐわないように思う。2020/11/16
二戸・カルピンチョ
24
結末は結末として受け止めておくとして、私もやっぱり、「ホロコーストと拒食症は関係がない」と思う。そしてジャック・デロシュがどんな人間であろうと、彼らを手引きしたSSがいて、無事に生き延び、エマまで命を繋げたことは、私は素晴らしいと思う。さて、本当にソビブルを知らなければ、祖父母が思った通りのいい人であったなら、エマは拒食症にならなかったのか。どうしても、そこが物語を邪魔しているように思えてならない。2018/09/30
ぱせり
15
60年前の秘密と、少女の拒食症とを絡み合わせることの意味を最後に知って、彼女の青春時代をたまらない思いで振り返って居る。読み終え、ぼーっとなっている。この重さの正体はいったいなんなのだろう。羞恥心、痛み、怖れ。そして、無力感。『隠されたホロコースト』・・・隠し場所は歴史の中か。地理の中か。記憶の中か。違う。わたし自身の腹の中かもしれない・・・ 2016/08/30
