出版社内容情報
空海が醍醐天皇より「弘法大師」の諡号(しごう)を贈られてから1100年。空海伝説の水として日本各地に存在する弘法水について、長年にわたる実地調査研究の成果を踏まえ集大成。
総説編では,弘法水の歴史・分布,湧水・井戸水の湧出量や水質分析などによる水文科学的特徴を解説。民俗学,地理学からだけでなく,自然科学的視点からもアプローチしたユニークな内容。
地域編では,日本全国で確認できた1500か所余の弘法水について,水利用形態や保存状況,伝説内容などを都府県別に豊富な写真を用いて紹介。データブックとしての資料性も十分なレファレンス。
給説編
第1章 弘法大師の伝説
第1節 弘法伝説の由来
第2節 弘法水の名称
第3節 弘法水の成立
第4節 ダウジング
第2章 弘法水の分布
第1節 日本における分布傾向
第2節 弘法地名と伝説
第3節 涸濁・悪水伝説の分布
第4節 東北地方における弘法水
第5節 関東・中部・北陸地方における弘法水
第6節 近畿・中国地方における弘法水
第7節 四国・九州地方における弘法水
第3章 弘法水の水文科学的特徴
第1節 調査研究方法
第2節 湧出形態
第3節 湧出量
第4節 地下水の概念の変遷と弘法水
第4章 弘法水の水質
第1節 特異な水質を持つ弘法水
第2節 EC,pH,ORP
第3節 無機主要成分
第4節 効能と水質
第5節 硝酸イオン
第5章 弘法水の用途と効能
第1節 弘法水の効能・用途とその科学的根拠
第2節 プラシーボ効果
第6章 弘法水と伝承に登場する人物
第7章 四国八十八ヶ所遍路道に存在する弘法水
第1節 遍路道の存在と弘法水
第2節 遍路道に存在する弘法水とは
第8章
弘法水の本質と今後の課題
地域編
地域編の作成に当たって青森県
岩手県
宮城県
秋田県
山形県
福島県
茨城県
栃木県
群馬県
埼玉県
千葉県
東京都
神奈川県
新潟県
富山県
石川県
福井県
山梨県
長野県
岐阜県
静岡県
愛知県
三重県
滋賀県
京都府
大阪府
兵庫県
奈良県
和歌山県
鳥取県
島根県
岡山県
広島県
山口県
徳島県
香川県
愛媛県
高知県
福岡県
佐賀県
長崎県
熊本県
大分県
宮崎県
鹿児島県
…弘法水の伝説とは、水に苦労している地域を訪れた弘法大師が人々を不憫に思い,杖(いわゆる金剛杖や錫杖(しゃくじょう)で地面をついたところ水が湧き出た,などの伝説であり,日本各地に数多く存在する。これらの伝説の真偽はともかく,一般的に弘法水は水を大切にせよという古来の戒めを表していると考えてよい。ところが今日では弘法水は単なる伝説として切り捨てられ,その多くが開発の波に晒され,消え去りつつあるのが現状である。しかし,弘法水は日本最高の頭脳とされる弘法大師の伝説の水である。その伝説自体はかなり眉唾的なものがあるものの,地域の人々が弘法水伝説を残してきたその思いは大切にしなければならない。
弘法水はあくまでも伝説の水であり,民俗学的,宗教学的な調査研究が代表的なものである。また,考古学の観点からは古井戸の研究の中に,多くの弘法水の事例が挙げられている。地理学からは断片的ではあるが数多くの弘法水が紹介され,その水質について述べられている。しかし,弘法水を系統的に扱い,自然科学的な側面から解析した研究例は全く見られない。
筆者はこれまで機会あるごとに弘法大師ゆかりの水を調査してきたが,それらを人文・自然科学的視点から見ると,多くの類似点が見つかった。
…これらの弘法水を採水し水質分析を実施したところ,異常な水質を示す水が少なくないことが明らかとなった。これまで弘法水は単なる伝説の水として知られていたが,そこには民俗学的,地理学的,自然科学的に興味深い事実が隠されていた。長い歴史の中で,人々の営みが弘法水という存在に特別な意味を持たせて利用していたと見ることができる。
(本書「はじめに」より)
目次
総説編(弘法大師の伝説;弘法水の分布;弘法水の水文科学的特徴;弘法水の水質;弘法水の用途と効能 ほか)
地域編(青森県;岩手県;宮城県;秋田県;山形県 ほか)
著者等紹介
河野忠[コウノタダシ]
1960年東京都に生まれる。1989年立正大学大学院博士課程単位取得退学。現在、立正大学地球環境科学部教授。博士(地理学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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