出版社内容情報
他人とのコミュニケーションが苦手な少年オーウェン。大学進学のこと、父親に本心を言えないことで鬱々としていたある日、作曲家を目指す少女ナタリーと出会う。ナタリーは心の内を話せる友達とになったけれど、次第に女性として意識しはじめ、二人の間に溝が……。友情と恋の狭間、両親の期待と自分の夢の間で苦悩し、揺れる少年の心をSF・ファンタジーの大御所、ル=グィンが美しいアメリカの情景とともに紡ぎだします。
★厚生労働省社会保障審議会推薦図書
★全国学校図書館協議会選定基本図書
内容説明
人とのコミュニケーションが苦手なオーウェン。作曲家を目指す少女ナタリーには、悩みや進路のことをじっくり話すことができた…。友達であるナタリーをひとりの女性として急に意識しはじめて、二人の友情の歯車が噛み合わなくなり…。
著者等紹介
ル=グィン,アーシュラ・K.[ルグィン,アーシュラK.][Le Guin,Ursula K.]
アメリカの小説家。SF小説、ファンタジー小説を多数執筆。ヒューゴ賞、ネビュラ賞、ローカス賞など数々の賞を受賞
中村浩美[ナカムラヒロミ]
愛知県生まれ。YA、ファンタジー作品を中心に翻訳にたずさわる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
372
ル・グインがエミリー・ブロンテの『ゴンダル年代記』を遥かに望見しつつ描いた青春の物語。17歳の誕生日を迎えたばかりのオーウェン。家庭でも(けっして問題があるわけではなく、むしろいい方なのだが)、高校での生活においても何か馴染めないものを感じている。将来への希望もなくはないのだが、それに邁進することもできない。同年代の青年たちが謳歌する行動にも同化できない。私たちにとっては「いつか来た道」なのだが、その渦中にある彼には深刻である。オーウェンの孤独に強く共感を覚える。痛みと郷愁に満ちた青春の物語である。2021/12/22
ケロリーヌ@ベルばら同盟
62
【第189回海外作品読書会】17歳の誕生日を迎えたばかりのオーウェンは、頭は良いけれど、内向的な少年。雨の日に鬱々とした気持ちを抱えて乗ったバスの車内で、運命的な出会いをします。近所に住む同い年だけれど、良く知りもしなかったナタリー。幼い時から楽器に親しみ、作曲家を目指し着実に歩みを進める彼女の姿が、大学進学を目前にして、希望する進路を親に伝えられない自分と比べて、とても眩しく見えて…。心の中に自分だけの小さな国を持つ心優しい若者の恋と成長が、カセットテープとタイプが活躍する時代を背景に繊細に綴られます。2021/09/24
ぶんこ
49
17歳のオーウェンの思春期の戸惑い、悩みを記す文章がみずみずしい。1970年代の青春小説なのですが、それよりも少し前の時代の若者の苛立ち、焦燥、憧れを描いた小説を思い起こしました。男性作家さんが書いたと思ったら、ゲド戦記を書かれた有名な女性作家さんでした。個性を尊重する西欧社会と思っていたら、皆から浮かないようにとやきもきする子どもたちがいたのでびっくり。学校や家に居場所がないオーウェンに、やっと現れた理解者ナタリー。異性との友情の難しさに直面しつつも、最後はナタリーによって救われたオーウェン。良かった。2018/05/23
kaoriction@感想&本読みやや復活傾向
23
以前からル・グィンを読みたいと思っていたのだが、何から手をつければいいのかわからず…そもそもSFやファンタジーは範疇にないし。そんな中で出会った作品。40年以上も前の作品らしいが全く古びない。優等生オーウェンと作曲家を目指すナタリー。二人にしかわからない言葉や感覚。友情から恋愛へと変わる感情。惰性、妥協、忍耐、諦め。だけど、抱く淡い未来。十代特有のモヤモヤ感が絶妙。無理に距離を置きながらも付き合う二人、成長するオーウェンが、逆に微笑ましいかも。「ソーン」ではなく、現実世界で二人で暮らせる日はきっと近いよ。2015/09/23
tom
21
ル=グィンのYA。いかにもグィンという語り口。すごく頭が良いけれど、周囲の人に合わすための苦労が絶えない少年。音楽の才能はとても高いけれど、そのぶん周囲に異物感を感じている少女。この二人の出会いと、生きていくための覚悟を得るためのひと夏のやり取りを書いた小説。少女が作曲した歌曲の演奏シーンはなかなかのもの。練習場面もいいなと思う。そして、同調圧力というもの、日本に著しく高いものと勝手に思い始めていたのだけど、これに押しつぶされそうになる人たちは、どこにでもいるのだと改めて感じた。2022/01/04