内容説明
1940年春。空軍パイロット、ジェフリーの出征に伴い、妻のフローリーは飼い猫ロード・ゴートを連れて田舎に疎開した。だが田舎の家になじめないロード・ゴートは、不思議な第六感に導かれ、ジェフリーを求めて旅を始めた。転々と居場所が変わる主人を追って、猫は、さまざまな人に出会い、飼われながら旅を続けていく。夫の戦死に絶望する若い未亡人、軍隊こそわが居場所だと誇る軍曹、住み慣れた古い街が空襲で炎上し途方に暮れる老人、黒猫は幸運を運んでくれると固く信じる若い兵士…戦争によって変わってしまった普通の人々の暮らし、その苦しみと、厳しい日々にも挫けない勇気とが、猫の旅を通して鮮やかに浮かび上がる。そしてジェフリーもまた、「戦争という暗いトンネル」の中で、変わってしまっていた。だが、最後にただ一つ変わらなかったものは…?イギリスの戦争文学の第一人者ウェストールが描く、忘れがたい印象を残す物語。イギリス・スマーティー賞受賞作。十代以上。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
64
【猫と読書】【女祭り】大好きな飼い主の居場所がなぜかわかるという猫の直観力を題材とし、猫が行く先々で出会う戦時下の人々との触れ合いが描かれている。雌猫なのに戦時中ということでロード・ゴート(ゴート元帥)と名づけられた猫がその名札と黒猫ということから「幸運の女神」として会う人会う人に大切にされ、出会った人を危険から救ったり悲しみを和らげたりしたりするという展開はいかにも児童文学的だが、登場するのはほとんどが大人だし、戦争未亡人の悲しみやスミス軍曹の愛国心などの細やかな描写など、大人でも十分読み応えがある。2017/05/22
アナーキー靴下
61
疎開先に馴染めず、空軍パイロットの飼い主を探して旅する黒猫ロード・ゴートと、出会う人々の物語。例外はあるもののほぼ行く先々で「幸運の黒猫」と持て囃され、それが現実となる展開だが、魔法めいた奇跡は何もない。連綿と続く日常、強い恒常性の中に突然飛び込んでくる黒猫という異物。人間の都合などお構いなしの、圧倒的な、完結した異世界。それに触れたとき、人間は拠り所をなくし、孤独に、正しく判断し、或いは気の迷い、突如魔が差したり、考えるより先に行動したり、そういう「運」めいたものを引き寄せるのは自分自身ではなかろうか。2023/08/04
yumiha
51
誌友さんレビューに心惹かれて。よかったです。ロード・ゴートなる雌猫が疎開先の家から元の家へ、さらには懐かしいジェフリーの匂いを追い求めて旅をする物語。添え物の猫ではなく、ずっと主人公でっせ。魔女狩りでは巻き添えにされてしまった黒猫が、1940年というドイツとの戦争下のイギリスでは縁起がいいそうな。戦時下なので、脇役の人間たちが戦争に翻弄させられる様子も丁寧に描かれていた。私のお気に入りは、猫にも馬にも人間にもやさしいオリー老人。焼夷弾で家を焼かれ、馬車でコヴェントリーからコールズヒルへの逃避行は息詰まる。2022/09/12
モモ
47
猫がもつという超常的な追跡能力。大好きな飼い主ジェフリーを求めて黒猫ロード・ゴートは旅に出る。孤独な任務と自らの出自に心をふさぐ男性。ナチのパイロットを爆発から救う。戦時中でも、おしゃれを楽しみ、普通の生活をしようとするイギリス人をうらやましく感じた。世話になっている家が爆撃されて、素早く修復する軍曹。空襲で焼け出されたコヴェントリーの農夫。愛する夫が戦死し、生きる気力をなくした女性。ロード・ゴートはそっと彼らを癒す。そして本能からか、危ない場面を助ける。実話を基にした話というのが驚き。とても良かった。2023/04/16
たまきら
39
中沢啓治さんのクロとの思い出を読んだ後、今度はイギリスの黒猫の話にたどりついた。疎開先から愛する人の元へ旅する賢いロード・ゴートは、様々な人と出会っていく。スコットランド人の軍曹とは、もしかしたら一生一緒だったのかもなあ…などと思いながら読了。これを児童小説だからと手にしないのはもったいない…素晴らしい一冊だった。とても短いけれど軍曹と青い花のエピソードが心に残った。2022/08/23
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