内容説明
16歳の少年ハルが、「死んだ友人の墓を損壊した」という罪で逮捕された。だが「なぜそんなことを」という問いに、ハルは答えようとしない。深夜、18歳で死んだ友人バリーの墓で、ハルは何をしようとしていたのか。バリーはなぜ死んだのか…。ハルが唯一信頼する教師オズボーンの勧めで書き始めた手記から、次第に、ハルとバリーの絆と破局、二人が交わした誓いが明らかになる…。法廷に任命されハルを見守るソシアルワーカーのレポートや、事件を伝える新聞記事等を織りまぜながら、最も残酷な形で恋を失った少年の混乱と再生を描く、心に響く青春小説。1980年代にヨーロッパ中の若者の心を捉え、今なお読み継がれている一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェルナーの日記
118
一応、著者の関係から児童文学のジャンルとしたが、内容でいえば、ヤング・アダルトというべき物語であろう。稀有なのは、この類の主人公は女子が定番に対して、本作は男子が主人公であること。少年ハルは年上の男子バリーにあこがれる。その感情は友情以上のモノがあった。文芸批評的に論ずれば、ジェンダー批評となり、クィア理論を語った物語で、作品としても稀有さがある。そこで散文詩が浮かんだ。「天に月、地には霧。生ける者が身を横たえて眠り、亡者が冥界から立ち目覚めとき。愛を亡くした咎人よ、汝が罪を悔いるなら、俺の墓の上で踊れ」2015/06/13
ケロリーヌ@ベルばら同盟
58
英文学と演劇の教師であると同時に僧院の僧。後に夫人と共に出版社を興し、優れた児童書を紹介する書評誌を出版、寡作ながらも質の高い作品で内外から高い評価を受けるエイダン・チェンバーズ氏が、新聞で目にした記事に着想を得て、12年の歳月をかけ紡いだこの物語は、16歳の少年が体験した夏の始めから終わりまでの濃密な記録。幼い頃から思い描いていた永遠の半身を得た歓喜と蜜月、そして無惨な別れ…。若者の自意識過剰で刹那的な行動の裏にある一途さ、脆さを剥き出しの一人称で迸るような筆致で描きだした傑作。浅羽莢子氏の訳文も秀逸。2022/11/24
seacalf
49
夏休み期間だからだろうか、普段よりすんなりとあの頃の真っ直ぐでざらついた感覚が蘇る。どこまでも突き抜けていけそうな純粋な感情。本書はLGBTを扱った青春小説。親友と恋人が同じ存在だったら、どんな気分なんだろう?と思いながら読んだ。手記の中でハルは『本当に感じていたことは全然伝わっていない、書けていない』と所々で言っているが、その気持ちがよくわかる。書いていない部分が自分自身の10代の感覚を呼び起こす。少々技巧的過ぎやしないかとは思うが、やはり上手い。個人的には同作家の『二つの旅の終わりに』の方がおすすめ。2020/08/11
ルカ
28
16歳の少年ハルが、快活なバリーに惹かれるのは当然の事だった。 憧れ、恋、危険、死を盲目的に求める青春期の痛い程の情熱。ハルの手記から迸る、バリーへの想い。 あまりに赤裸々なので、これが児童書とは驚きだった。 映画化された『Summer of 85』を観たいと思い、その前に原作を読んだ。2021/09/03
たまきら
26
十代の自分の脳みそと人生をコントロールするので精一杯、な緊張感が伝わってくる小説でした。自分と向き合い、友人と関係を築き、異性との関係を模索する。言葉で言うと簡単だけれど、みんな多くの失敗と挫折を繰り返し、時を刻んでいく。そんな10代の日々をふと思い出す小説でした。ロングセラーだそうです。読み友さんから。2018/04/27