出版社内容情報
偏狭なナショナリズムではなく、「戦前」と「戦後」という断絶を、みずから納得して受け止めるに十分な「物語」を描く試み。
国家は物語のなかに成立する
偏狭なナショナリズムではなく、「戦前」と「戦後」という断絶を、みずから納得して受け止めるに十分な「物語」を描く試み。
内容説明
日本人の思考は「戦後の来歴」に規定され、近代以降の自国の営みを、きわめて否定的な見地から眺める習慣を身につけてしまった。こうした「戦後の来歴」をひとまず括弧に入れ、近代日本について新たな物語の端緒を見つける試み。早逝した保守論壇の巨星が遺した「国家と国民」の物語。
目次
序章 相互理解とは何か
第1章 「選択する自己」から「物語る自己」へ
第2章 国家の来歴
第3章 戦後日本とその物語
第4章 日本国憲法とフランス革命の物語
第5章 近代日本における国家制度の形成過程
第6章 象徴天皇制度と日本国憲法第一条
第7章 近代国際社会と日本
終章 ふたたび相互理解について
著者等紹介
坂本多加雄[サカモトタカオ]
1950年‐2002年。政治学、日本政治思想史。東京大学法学部卒業。同大学院法学政治学研究科博士課程修了。法学博士。ハーバード大学客員研究員、学習院大学法学部助教授、同教授を歴任。著書に『市場・道徳・秩序』(サントリー学芸賞、日経・経済図書文化賞)など。『天皇論―象徴天皇制度と日本の来歴』にて読売論壇賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
しゅん
16
自らの過去から今に至る道筋を物語る「来歴」が自己同一性には不可欠であるという視点から、日本の来歴を改めて問い直す。フランス革命を起源に持つ思想が必ずしも日本に合致しないにも関わらず重宝され続けていること、戦前と戦後の憲法には断絶ではなく連続性があることなどを丁寧に論証する様がスリリング。浮かびあがるのは「象徴天皇制」が持つ形式の重要性。国際関係に対する実践的な思考を得るためにも日本の「来歴」を捉える必要があるというのはその通りだし、これはリベラルな民主主義と必ずしも矛盾しない。今読むべき一冊だと思う。2019/02/15
白義
14
戦前日本と戦後日本のナショナルアイデンティティをつなぐ中核に象徴天皇制を位置付け、日本史における天皇のあり方と明治以後の国際社会の中での日本を語り直す物語。単に穏健な形で保守派の最良の近代史観の一つが語られた、というにとどまらず、そもそも自己を物語り、再構成するとはどういうことか、という哲学的な前提から議論を固め、自己や国家の相対化と脱構築に用いられた現代思想を逆に新しいナショナリズムに援用し解釈学的に再構成するという哲学的洗練性があり、想像以上に豊かな含蓄のある書物となっている。賛否を超えて読む価値あり2016/02/20
雲をみるひと
13
戦後日本の成り立ちを研究したもの。戦前から戦中期の考察も含まれている。終戦後、新しい日本をどう整理しどう受け入れたか、どう受け入れたかについて示唆に富んでいる。本作の作者は既に物故者となっているが、大戦が少し遠い時代になってきているのでこの手の研究本はこれからも出てきて欲しい。2020/10/22
バルジ
3
天皇退位・改元というタイミングだったので再読。著者は「象徴天皇制度」を個人に還元されるものではなく、あくまで「制度」として語る。また他国の物語を借用し、過度な自己否定と奇妙な同居を見せる優越感によって語られがちな「戦後日本の来歴」を退けもする。日本国憲法の精神を五箇条の御誓文に求めあくまで自国の「主体的」な選択の上に現在があることを示す。著者はあくまで「強制」されての愛国心は求めていない。自己の語る来歴の上に国家の来歴が重なる、そうした重層的な来歴の上に国際社会での相互理解が可能であることを説く。2019/04/27
バルジ
3
早逝した保守派言論人が紡ぐ魅力溢れる日本の来歴を語る一冊。 国際社会の中で日本はどういう立ち位置でいたいのか、それを「来歴」を手掛かりに浮かび上がらせるその筆致に引き込まれる。 現在跋扈する質の悪い「保守」言論とはまた違ったバランスの取れた、いい意味で90年代の一面を見せてくれる。2018/04/22