文春学藝ライブラリー
ルネサンス経験の条件

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  • サイズ 文庫判/ページ数 463p/高さ 16cm
  • 商品コード 9784168130137
  • NDC分類 702.05
  • Cコード C0195

出版社内容情報

芸術の可能性と使命とは何か? ブルネレスキ、マサッチオなどルネサンスの天才の仕事を分析しながら、その問いに答えた奇跡的著作。

遠近法はルネサンス期に完成し、人間を歴史の主人公とし、人間を近代的「主体」として振る舞わせる思考様式に大きく寄与したといわれる。
しかし、自身も造形作家である著者は、本当にそうだろうか? と問い返し、ブルネレスキやマサッチオら、ルネサンスの天才たちが創造した建築や絵画を見つめ直し、精緻な分析を加えていく。とりわけブルネレスキが作ったフィレンツェのサン・マルコ大聖堂のクーポラとマサッチオらが描いたブランカッチ礼拝堂の壁画が入念に解読される。
そこから導かれる解答は驚くべきものである。
遠近法によって描かれていると考えられていた絵画は、常に遠近法が崩壊し、分裂していくことを必然的にはらんでおり、しかも、それを描いた画家たちは、そのことが起きることを踏まえた上で、崩壊し、分裂した遠近法的空間をいかにして再び統一するような平面(それは当然、2次元にはとどまらない)を見る者に再創造させるかに没頭していた、というのだ。ルネサンスの芸術家の本当の偉大さはそこにある。
このことがあてはまるのは絵画だけではない。建築、彫刻、音楽、文学などあらゆる芸術に応用可能であることが示される。そして、その再創造される平面を現実の世界に出現させることにこそ、芸術の可能性があり、そこにしか芸術の使命はない、と著者は書く。
しかし、この本は芸術のみについて書かれた本ではない。
たとえば、遠近法的空間とその崩壊と分裂の背後にいつも潜在的に控えている平面の関係は、デカルトのような近代哲学が中心においた「主体」とカントが提示した超越論的統覚の関係のアナロジーとしても読めるだろう。
すなわち、本書は「もうひとつの考え方」「もうひとつの生き方」を探求する人の座右の書となるべき恐るべき書物である。
文庫版あとがきとして、驚くべき新知見が加えられ、10年以上の時を経て、「奇跡的著作」が甦った。解説・斎藤環

内容説明

フィレンツェのサンタ・マリア大聖堂を創造したブルネレスキ、ブランカッチ礼拝堂壁画を描いたマサッチオ…。芸術の可能性を追究する造形作家が、ルネサンスの天才たちの作品の精緻な分析を通じて、芸術の秘密を明らかにする。永遠に新しい驚異の書物。

目次

1 アンリ・マティス
2 想像上の点
3 転倒する人文主義
4 射影変換
5 多声と記譜
6 三位一体
7 確定されえない場所
付論 信仰のアレゴリー

著者等紹介

岡崎乾二郎[オカザキケンジロウ]
1955年、東京生まれ。造形作家、批評家。絵画、彫刻、映像、建築など、ジャンルを超えて作品を創造するとともに、美術批評を中心に執筆を続けてきた。1982年のパリ・ビエンナーレに招聘されて以来、数多くの国際展に出品(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

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感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

しゅん

10
ルネサンスの建築家ブルネルスキのドーム建設に用いた智恵の数々。フェルメールの悪名高い絵が示す、全く別の可能性。マティス晩年の教会における仕事のヴィジョン。一回読んだだけですぐに飲み込める内容ではないが、それ故に全ての章に尽きない興味が湧く。自らの交換可能性を知ることで始めて自らの固有性に気づくことができるというテーゼはもっと深めて考えていきたい。2018/09/27

hitotoseno

8
何が素晴らしいって小生のような美術素人が読んでも一読で素晴らしいとわかるほど圧巻の出来を示している点である。ルネサンス期に完成を迎えたとされ、後世からは槍玉にあげられている遠近法という技巧が本来は別の可能性を有していたにも拘らずあることをきっかけに今の形へと変貌してしまったという話を始め、応用のしようがあるトピックに満ちている。唯一の欠点は文庫の癖して2000円と割高なことか。著者の労苦を鑑みれば確かにこの価格設定でも妥当だろうが、より人民に普及させるために電子化などを通して価格を切り下げるべきだろう。2016/03/31

ムチコ

5
目の前にあるものをどのように「経験」するか。話が広がって牽強付会の印象もあった『抽象の力』よりまとまりがあり、ブルネレスキ(本書を読むまで知らなかった)の礼拝画については目が開く思いで、これを読んでから見に行った豊田市美術館の岡崎展でも解説されていて面白さが増したし、岡崎の実作にたいする自分の見方も広がったように感じる。本書で最も執筆年が古いフェルメールについての論考もとりわけスリリングだった。2020/01/01

4492tkmt

3
美大の授業4単位(通年)を受けた気分。小学生のころ、普通に風景画を描いたときに、「遠近法っていっても、普通に遠くのものは小さく見えるんだからこうなるよね」くらいの感じで書いていたけど。。。建築にしろ絵画にしろ音楽にしろ、製作者はここまで精緻に考え抜いてつくっているのかと思うと、今の自分の仕事ぶりには反省しかない。関ジャムでも、音楽を作るうえでの考えの奥深さを感じていたが、絵画も建築も大変だ。天才ってのは、何も考えずに、ヒラメキ(脊髄)だけで動いているのかと思ってた。いたずらひとつとっても、なんか、すごい。2023/03/25

ぷほは

3
良書。ただしエピグラフ「なおなされるべきことが残されている限り、なにもかもまだなされていないと見なされる」という『純粋理性批判』の言葉は、確か著者の言葉ではなく古典ローマか何かの箴言だったのでは。つまり本書の再検証はもっぱらカントやヴィトゲンシュタインといった近代以降のパースペクティブを以て吟味されるのであり、それ自体は「モダニズムのハードコア」として穏当ではある。とはいえいわばカントの孫引きに表象させた議論はまた、経験の条件そのものの水準としてはやや物足りない。特に143頁の図などはあまりに素朴では…。2017/02/10

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