内容説明
文化年間の江戸、女手ひとつで貸本屋を営み、高荷を背負って江戸の町を巡るおせん。板木盗難や幽霊騒ぎ、幻の書物探しなど読本に係わる事件に立ち向かう出色の捕物帳。読本文化の豊饒さに、本好きなら時代を超えて魅了されるに違いない。オール讀物新人賞、日本歴史時代作家協会賞新人賞に輝くデビュー作。
著者等紹介
高瀬乃一[タカセノイチ]
1973年愛知県生まれ。名古屋女子大学短期大学部卒。2020年「をりをり よみ耽り」で第100回オール讀物新人賞を受賞。2022年、受賞作を収録した初の単行本『貸本屋おせん』を上梓し、第12回日本歴史時代作家協会賞新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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sin
46
イッチ、リアルな江戸が在る。自分の印象だが江戸を舞台にして市井の暮らしを描いた作品と云えば人情モノを思い浮かべてしまうが、こいつはそんなに甘くない。時の権力者の都合か?武家と云う立場の衰退の兆し故か?庶民の娯楽につきまとう規制の数々⋯読み物と云う娯楽には当時の政によって課せられた制約がいっそう色濃く滲み出している。禁書に連座して刑罰を受ける職人、災難を読み物にされて逆恨みの男、美人絵の裏と託した女将の願い、幻の帖に隠れたロマンスと現実、火事に始まり火事で結んだ足抜けの顛末⋯それでも庶民は力強く生きている。2025/05/23
アイシャ
27
江戸時代、貸本屋さんが重い本をたくさん背負って、町々をまわっていたのね。若いとはいえ女性の体力でこの仕事をするおせんは、本当に本が好きなんだなぁ。元気で威勢のいい彼女は、ちょっとおせっかいでもある。いろいろと危ない目に会いながらも、筋を通しながら生きている。この時代、幕府からの出版業への締め付けはなかなか厳しくて、腕のいい彫師だった父親が、指を折られてしまい、最後に自死してしまったのは本当に気の毒。続きもあるらしいが、せめて登への当たりを少し柔らかくしてあげて欲しい。2025/06/14
えみちゃん
20
初読みの作家さん。江戸の貸本屋さんの話ってことでいつか文庫化したら読もうと思ってました。今年の大河ドラマ「蔦屋耕書堂」なんかもチラッと出てきてなんだかタイムリーな感じ。笑っ。江戸の出版事情やら庶民が本や錦絵を気軽に楽しんでいたことがいきいきと描かれていてとても興味深い。その一方で御公儀の都合で戯作者、版元はもちろんのこと板木の彫師にまで罰せられるとは穏やかじゃない。腕利きの彫師だった父親を持つおせんは女手ひとつで貸本屋を営み、高 荷を背負って江戸の町を巡ります。その先々で本にまつわる謎に遭遇する2025/05/23
愛書家
12
時代小説は普段読まないです。中々取っ掛かりがないですから。でも、スマホのネット記事で「これは読むべきかも」なんて思ったわけです。なるほど、これは待ち焦がれていた時代小説と言ってよいです。貸本屋という職業が成り立っていたはるか昔の人情捕り物帖でした。幅広い世代に読んでほしい時代小説でした。2025/05/22
うさぎや
8
大江戸ビブリオミステリ連作。おせんの面倒見の良さと江戸っ子的なドライさのバランスがとてもよい。2025/05/22