出版社内容情報
明治初年の東京を舞台に、「最後の木版浮世絵師」となった
小林清親の半生を描く傑作時代小説。
失われつつある江戸の情景への愛惜、一世を風靡した「光線画」の凋落。
時代の激動に呑み込まれて沈みゆく人々と自身へのやるせなさを噛みしめる清親の、優しさゆえの苦悩と新時代へかける想いが交錯する。
第100回直木賞受賞作。
「いかにも好もしい男」--解説・田辺聖子
内容説明
「小林さんの絵は、きっと売り物になります」版元のその言葉が、もと御家人の男を決意させた。激動の時代に飲まれた人々の、心優しさとむごたらしさを噛みしめ描いた「東京新大橋雨中図」は一世を風靡したが―明治初年の東京を舞台に「最後の木版浮世絵師」小林清親の半生を描く第100回直木賞受賞の傑作時代小説。
著者等紹介
杉本章子[スギモトアキコ]
1953年、福岡県に生れる。1979年、「男の軌跡」で第4回歴史文学賞佳入賞。1988年、『東京新大橋雨中図』で第100回直木賞を受賞。2002年、「信太郎人情始末帖」シリーズ第1作「おすず」で第8回中山義秀文学賞を受賞。綿密な時代考証に基づいた作品群に定評がある。2015年12月4日、逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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やいっち
53
「明治初年の東京を舞台に、「最後の木版浮世絵師」となった小林清親の半生を描く」時代小説。明治の小林清親は、大正昭和に活躍した川瀬巴水 (かわせはすい 拙稿「川瀬巴水 旅情詩人と呼ばれた版画絵師 没後50年展」)と共に、明治以降で好きな浮世絵師の一人。ほかに土屋 光逸なども見逃せない(拙稿「古代の東海道沿いに住んでいた」など参照)。2025/06/19
エドワード
25
小林清親は明治に生きた最後の浮世絵師と呼ばれる。幕臣だった彼は、一度駿府へ赴き、剣術興行などを行っていたが、江戸へ戻り、絵の修行を始める。新しい東京の姿を描いた絵は出版されるや光線画と称して評判となる。彼をめぐる人々との愛情あふれる交流がいい。嫂の佐江に抱く思慕、遊女の紅梅との出会いと別れ。画家の月岡芳年、河鍋暁斎との親交も楽しい。しかし彼の家族は落ち着かない。次女の死、妻との離婚。そんな出来事が江戸から東京へと移りゆく明治初年の世相の中に描かれる。お芳と年の市の終幕がいい。田辺聖子さんの解説も秀逸だ。2025/05/29
たいこ
9
時代小説が沁みる年になったかとしみじみ。光と影の浮世絵をテーマにした展覧会が数年前にあって、結局行けなかったけど気になっていた小林清親。目まぐるしい時代の変化の様子が生き生きとわかりやすく、どんどん読めた。小説は清親の人生の途中で終わるけれど、Wikipediaで調べたら、そのあとがなかなか凄まじくて、そっちも気になってしまった。2025/05/01
リュウジ
8
★4ほんわかしたわ~。特にラスト約20頁!ニヤニヤしながら良い仲の二人の様子を読んでたわ。そんな物語の柔らかな面白さに加え、無駄と思えるセンテンスがない作者の筆力。時代の変化も明治の情景も人々の所作も哀しみも幸福もありありと目に浮かぶ。主人公は紆余曲折し絵師となった男。ほんの時折人を羨み怒ったりもするが、すごくいい人。誰に対してもやさしい。気働きも忘れない。彼の芯がいい人だからだろう、周りの人たちも彼に気をかける。だれもが「困った時はお互い様」のあの時代。他人との心の距離が近い時代だったんだと噛みしめる。2025/09/20
ふたし
7
幕末から明治にかけ、時代の波に翻弄されながらも己の道を切り開く。新しい日本を作った維新の英雄の話もいいが、こういう人の話もいい。絵師としての成功も興味深かったか、元幕府の下級役人の新政府に対する思いも興味深かった。2025/10/02