内容説明
足利八代将軍となる義政を育てた乳母の亥万。彼女はやがて、義政に閨の手ほどきをし、側女として政にも関わるようになっていた。正室の日野富子が待望の子を授かるが、産まれてきた赤子は呼吸をしていない。富子は、亥万の呪詛が腹の子を殺したのだと訴えて―。室町時代を舞台に人間の業と情を描く傑作歴史小説。
著者等紹介
奥山景布子[オクヤマキョウコ]
名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。高校教諭、大学専任講師などを経て創作を始める。2007年「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞を受賞。09年、受賞作を含む『源平六花撰』で単行本デビュー。18年、『葵の残葉』で第37回新田次郎文学賞、第8回本屋が選ぶ時代小説大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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エドワード
28
室町幕府はその始まりからして下剋上である。足利義満こそ権力を握っていたが、その後は長い不安定を続けて終焉を迎える。時宗の僧侶・願阿弥、籤引き将軍・足利義教、足利義政と日野富子、義政の乳母・今参局、富子が育てた町娘・雛女。一瞬も気をぬけない緊張感。義政が成人した後も愛妾となる今参局、義政、富子の愛憎の描写が迫力満点だ。彼らは同じ方向を見ていない。建築と庭園の造営しか頭にない義政、貨幣経済に活力を見出す富子。応仁の乱も他人事だ。最後に今様が出て来る。寂しいけれど、庶民の雛女に新時代の胎動を感じさせる終幕だ。2024/02/17
Y...
1
願阿弥、足利義教、今参局、日野富子、足利義政、雛女と珍しい室町時代の人物をまとめた6つの短編集。特に良かった作品は無かったが、室町の知識が無いから楽しめて良かったです。2024/01/06
Ryo0809
0
文化は隆盛し、物語、和歌、建築、絵画、能や申楽などが生まれたが、政治的には不安定極まる室町時代。応仁の乱に象徴される権力闘争が京の都を壊滅させる。民の暮らしは荒れ、商業は発展するが貧富の差は拡大してゆく。それにしても、女たちの情念の凄まじさに比較して、将軍職にある男たちのなんとちっぽけで暗愚であることか。奥山景布子の筆は本作でも冴え、人気のない時代の世相を六つの短編が紡ぐように炙りだす。巻末の対談は筆者の視点が説明されていて、興味深い。2024/01/20