出版社内容情報
戦前から戦後にかけて、豪華な指輪が次々と持ち主を変えながら数奇な運命をたどる。欲望と愛憎の人間ドラマを描く傑作連作推理小説。
内容説明
昭和初期、九州の炭鉱主が愛娘に買い与えた3カラットのダイヤの指輪。高度成長に沸く東京で、工事現場に働く少年のポケットを経て息をのむ結末を迎えるまで、次々と持ち主を変え、数奇な運命を辿る。戦前から戦後への昭和史を背景に、ダイヤの流離の裏にひそむ人間の不幸を12の連作推理小説で描く。
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1909(明治42)年12月、福岡県企救郡板櫃村(現・北九州市)に生れる。53(昭和28)年「或る『小倉日記』伝」で第28回芥川賞を受賞。56年、それまで勤めていた朝日新聞社広告部を退職し、作家生活に入る。63年「日本の黒い霧」などの業績により第6回日本ジャーナリスト会議賞受賞。67年第1回吉川英治文学賞受賞。70年第18回菊池寛賞、90年朝日賞受賞。92(平成4)年8月死去。98年、北九州市に「松本清張記念館」が開館(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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NAO
56
最初からあまりいい目的ではない買われ方をしたためか、所持した女性たちをことごとく不幸にするダイヤの指輪。夫殺しの犯人になったり、愛人に殺されたり。そして、持ち主がいなくなると、なぜかまた、最初に指輪を売った宝石商の元に戻ってくる。それは、まるで、このダイヤの指輪が意思を持ち、さらなる犠牲者を求めて宝石商のもとに戻っていくかのようだ。2022/08/09
ブラックジャケット
18
3カラットもある絢爛たるダイヤモンド、持ち主が変わる度にドラマを産んでいく12の連作短編集。初出は婦人雑誌で、読者サービスもありのかな。いわゆる狂言回しがダイヤモンドとなる。昭和初期の北九州、愛娘の結婚祝いに炭鉱王がプレゼントが初回の逸話。朝鮮半島に渡り、日本軍の運命とともに変転する。つまり歴史の連動する面白さがある。戦後は進駐軍相手のパンパンの指を飾ることもある。著者は昭和史を意識したのだろう。60年の安保闘争まで背景に加える。最終編は、高度成長を担う少年工の手に渡る。驚愕のラストで絶句する。巧いね。 2023/08/25
りんだりん
17
3カラットのダイヤが次から次へと人の間を渡り歩く。あたかも手にした人間とその周囲の者に災いをもたらすかのごとく次々に殺人事件が起きる。女性誌に連載されていたようで、男女関係のもつれをベースに松本清張らしい人間臭さが溢れる連作。昭和の雰囲気をふんだんに感じることのできる作品でもある。★22022/07/18
mashumaro
14
伝説のダイヤモンド、コ・イ・ヌールの悲劇を思い出させるような本著、愛情の証として贈られたダイヤモンドが災いを招きながら持ち主を変えていくさまは、まさに表題の「絢爛たる流離」です。ため息の出るような光を想像させるミステリーでした。全12話に散りばめられたトリックの面白さ、悪事に手を染める人間の愚かさ、ダイヤモンドを手にした女性の悲運が入り混じり、とても読み応えのある一冊でした。本作も、松本清張作品の完成度の高さに脱帽です。2023/04/01
おっとー
10
立派な3カラットのダイヤを巡る短編集。このダイヤを手にした人々が泥々の事件を巻き起こす。舞台は戦前から戦後まで、そして時には満州にも渡り、男女間のいざこざから多種多様な殺人事件が発生する。隠蔽できた犯罪もあれば、不意に発覚する犯罪もあり。人間の心情を深く酌んで事件の題材とするのは清張ならではだし、短編集なのに読んでいても登場人物への親近感や、その後の展開へのハラハラした気持ちが呼び起こされる。2023/01/14