内容説明
綱渡りの如く心身のバランスをとりながら、医師で作家という二足の草鞋を履いて四十余年。今、定年退職し、地元の男たちと山から伐り出した材で小屋を建て、岩魚を食し、酒を呑む。その場に現れるのは祖母、母、父、姉、山遊びの先達ら先に逝った懐かしい人びと。生と死の境を淡々と越える真摯でユーモラスな傑作私小説集。
著者等紹介
南木佳士[ナギケイシ]
1951年、浅間山北麓の群馬県嬬恋村生れ。総合病院に内科医として勤めつつ、地道な創作活動を続ける。81年、難民医療日本チームに加わり、タイ・カンボジア国境に赴き、同地で『破水』の第53回文學界新人賞受賞を知る。89年『ダイヤモンドダスト』で第100回芥川賞受賞。2008年『草すべり その他の短篇』で第36回泉鏡花文学賞、翌09年、第59回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
piro
36
ほぼ実話と思われる私小説。幼くして母を亡くし祖母に育てられた幼少期、都落ちの様な地方の医大生活、死と向かい合う医療現場、そしてパニック障害・鬱病の発症…。壮絶な人生を歩んできた南木さんですが、その人生を振り返る様にして、手造りの小屋で仲間と焼酎を飲む姿は、全てを受け容れてゆっくりと死を待つかの様。南木さんらしい静謐な文章では無いものの、人の一生の重みを感じる一冊でした。アルフレッド・シスレーの絵画に魅了された件、私もかつてその名を知らなかったシスレーの絵に魅了された経験があるので、何だか嬉しかったです。2021/12/23
どぶねずみ
33
過去に『阿弥陀堂だより』を読んで気に入ったので、是非他作品も!と思って図書館の棚から手にしたもの。あとがきをチラ見した瞬間に、著者が本作を最後にすると衝撃の事実を知る。全てがいつまでも続くわけではないことぐらい、私だってわかっている。ここであえて宣言というのは、著者自身も執筆活動に終止符を打ちたいという希望なのだろうか。最後にするには惜しいけれど、本人が受け止めながら、これまでを振り返り、静かに田舎暮らしをされて、最期を迎えようとしているのが感じられてどこか寂しい。他の作品も読み尽くしていきたい。2022/04/17
ほう
28
パニック発作やうつを病んだ筆者の、回復過程を綴る文章に私自身が癒されていくような気がする。気負いもなく淡々と書かれていて静かな読み心地。2022/06/25
Nao Funasoko
21
単語と単語をこのように結んでゆくと小説になるのかと妙に納得。なかなか味わい深い作品だったのでいつか再読するかも。芥川賞作家なれど初読の作家でした。2021/04/26
風に吹かれて
19
2018(平成30)年刊。 「畔を歩く」、「四股を踏む」で、生きてきた歳月を俯瞰的に振り返り、体を動かすことで心身の調和を見出して今があることを書く。自身の生の一つの区切りを描いているようだ。 「小屋を造る」、「小屋を燃す」で近所の仲間との交友を描く。心を患いながらもようやくたどり着いた境地。すべてではないけど概ね読んだ「南木物語の終章」(「文庫版あとがきとしての独白」より)。 →2022/02/26