内容説明
父の何度目かの転勤で、中学3年の歩は津軽の小さな町に越してきた。持ち前の適応力ですぐクラスになじむが、6人しかいない男子の中ではリーダーの晃を柱に、遊戯と称した陰湿な虐めが行われていた。そして迎えたあの夏の日―。緻密な描写で圧倒的存在感を放つ芥川賞受賞作と、単行本未収録2篇。鬼才の魅力が迸る1冊。
著者等紹介
高橋弘希[タカハシヒロキ]
「指の骨」で第46回新潮新人賞受賞。『日曜日の人々(サンデー・ピープル)』で第39回野間文芸新人賞受賞。「送り火」で第159回芥川賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ろくせい@やまもとかねよし
136
3短編収録。すべての物語は主題を捉えきれない印象だった。振り返りあえて頭を捻り、通底にある主題は不条理だったかもと思惟す。「送り火」が描くは、中学生のなかで伝え続けられる虐め。発する利他的な想いを全否定する抗えない社会慣習の不条理を表現するか。「あなたのなかー」は、突然複数近親者の死に接した21歳の女性を描く。人命をなんなく奪う自然の変わらない情景の不条理を表現するか。「湯治」は身体の不調で湯治に訪れる中年男性を描く。若さで蓄えられる力に対し老いで失う力の不条理を表現するか。仕様もないことの表現だったか。2021/12/16
ω
41
2018年芥川賞ω 閉鎖的な村×他所者の子供=◯◯ みたいなお話。理不尽な感じ〜!芥川賞っぽいっちゃあぽい|・ω・) 指の骨の方が好きかな〜。2021/03/02
いっち
40
無意識な差別意識を持つ主人公。主人公は、東京から青森に転校した中学3年生の男子。主人公は転校を繰り返しているので、人間関係の把握に長けている。よって、すぐなじむ。だが、田舎に染まらない。いじめられないような距離感で、深く関わらない。主人公は、青森の田舎や同級生を、下に見ているわけではない。ただ、「自分は違う、自分のいる場所ではない」とは思っている。なぜそうなったか。転校を繰り返しているから。なじんでも、「すぐに離ればなれになってしまう、忘れられてしまう」と知っているから。大人の都合(転勤)が関係している。2020/09/10
Tαkαo Sαito
38
東京で育った人付き合いの上手な中学生の少年が、父の転勤に伴い青森の田舎の中学校に転校になるも、そこでは少年特有の暴力が蔓延っていた。圧倒的に緻密な自然の描写が凄かった。緻密で美しい自然がある一方、終始不穏な空気が立ちこめる物語。終盤〜ラストが物凄く衝撃的なのにどこか他人事のような描写が凄みを増している。他に2編の短編が収録されてるが、「湯治」が好き。2020/09/03
ううちゃん
36
これまで芥川賞受賞作はほとんど合わなかったが、高橋さんの新聞エッセイでハマり、「指の骨」もよかったのでこちらを。高橋さんが「スタンドバイミー」を念頭に書いたと言っていた通り、思春期の男の子たちの暴力性や嗜虐性、繊細さや儚さ、不安定さが溢れていた。転校生の立ち位置というか歩の器用さに対する気持ちを、ラストの稔の言葉が何よりも物語っていた。この後この子たちはどうなったのだろうか。こんな残虐なことを描き出しながら、なぜかなんともいえない透明さを感じる高橋さんの文章、好きだなぁ。2024/08/22