内容説明
あの頃、僕の世界は庭だけだった―緑豊かな「発展途上国」で過ごした少年時代から植物を偏愛し、他人と深くかかわらない編集者の羽野。ある時、取材先で知り合ったニューヨーク育ちの理沙子に、帰国子女であることを隠す理由を問われる。彼女との出会いや周囲の女性の変化で羽野の人生観は揺らぎ始める。
著者等紹介
千早茜[チハヤアカネ]
1979年、北海道江別市生まれ。立命館大学文学部卒業。2008年、「魚」で第21回小説すばる新人賞受賞。受賞後「魚神」と改題。09年、『魚神』で第37回泉鏡花文学賞受賞。13年、『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞受賞、第150回直木賞候補。14年、『男ともだち』で第151回直木賞候補、15年、同作で第36回吉川英治文学新人賞候補(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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やすらぎ
228
この街は澱んでいるから限られた自然だけが救いとなる。全てが揃っているようで何もない。大切なものを覆い隠すように喪失感が広がっている。花だけが植物の本当の美しさではないように。人間のためだけに作られた果実が世界を満たす。種は永遠に芽生えようとしないのに。ここには庭しかなかった。星月も見えないのに常に明るい空。いつ眠りにつくかわからないのに笑っている夜。わかり合えない寂しさは当たり前なのか。適度な距離が心地よい美しさなのか。僕がここにいなければ都会の片隅で朽ちていくものもある。伝えようとしても伝わらないけど。2023/05/24
さてさて
166
『あの頃、僕の世界は庭だけだった』。幼き日々を過ごした異国での生活の先に、『植物』に囲まれ、『植物』と暮らす主人公・羽野の日常を描くこの作品。そこには、『部屋の植物たちが心配なので、僕は滅多に旅行には行かない』…と、『植物』を中心とした毎日を生きる羽野の日常が描かれていました。『植物』を全編にわたって描いていくこの作品。そんな『植物』への羽野の強い想いに少し怖いものを感じさせもするこの作品。言葉を発しない『植物』の不気味な静けさが背景となる物語の中に、冷んやりとした独特な世界観が癖になりそうな作品でした。2023/06/06
ベイマックス
96
はじめは植物の話しにイマイチ感出たけど、人間関係が絡んできて物語に面白味が出て来た。よかったです。2023/02/26
あすなろ
91
物足りぬと言えば物足りぬ。ても、そんな男を描きたかったのかとも思う。植物が好きな、というか想いを寄せる主人公に匂い・音・生命を五感を使って感じさせて語らせる。もう一味欲しいと言えばそうとも言えるし、これはこれで良いとも言える、僕にとっては不思議な作品だった。2020/11/01
クプクプ
83
期待以上に面白かったです。後半は息継ぎするタイミングがわからなくなるくらい、集中しました。千早茜さんが園芸に詳しくて驚きました。また、この小説は、植物に光を当てていますが、人間や恋愛のことはもっとしっかり書かれていました。東京の植物園が登場し、私も訪れた場所が出てくるので過去を懐かしく思い出しました。私も園芸や恋愛が上手くないですが、人それぞれの園芸や恋愛があっていいと、人生を肯定してくれた作品でした。2023/09/12