出版社内容情報
惜しまれつつ急逝した著者最後の文庫本。信長の着想力も、秀吉の魅力もない家康が何故天下人になりえたのか、その謎に挑んだ意欲作。
内容説明
本能寺の変、伊賀越え、小牧・長久手の戦い、小田原攻め、関東移封、朝鮮出兵、関ヶ原、大坂の陣。遂に戦無き世を実現させた家康だが、天下を落ち着かせるにはまだ果たさねばならないことがある。戦国乱世を終わらせた武将にして現代日本の礎を築いた男の一生を渾身の筆で世に問うた遺作、遂に文庫化。
著者等紹介
火坂雅志[ヒサカマサシ]
1956年、新潟県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務を経て88年『花月秘拳行』で作家デビュー。『天地人』は2007年第13回中山義秀文学賞を受賞し、09年のNHK大河ドラマの原作となった。著書多数。15年2月逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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W-G
344
まさに天下人な家康像。狸親父なイメージがこびりついている家康を、こんな風に描けるのは著者ならでは。強いていえば、本能寺の変前後や、大阪の陣あたりにもっと頁を割いて欲しいという思いはあるものの、大阪の陣を書き込むと、どうしても狸親父っぷりが出てきてしまう大人の事情もあるのかなと…。信長や秀吉の天下を”夢” ”欲” と表現して対比させるのも、すごくすんなり腑に落ちて説得力を感じた。かなりシェイプアップして、家康のみに焦点をあてているので、これを読むと山岡荘八版を読んで掘り下げたくなる。あと直江兼続を好きすぎ。2018/09/28
エピファネイア
83
上下巻約900頁の大作でかつ火坂さんの遺作。でも徳川家康75年の人生を描き切るにはまだ紙数が不足のような感じ。戦国武将の人生の太さと濃さを思い知る。しかし、大河ドラマ「どうする家康」を1年間見るために家康の生涯をおさらいしたという意味では満足の1冊。家康を貫く義と愛。大義や愛がない天下取りはうまくいかないという信念のもと、じっと機をうかがう家康。その忍耐が大きな敵を作らず、徳川250年の礎を築いた。すぐに結果を求める人が多い中で家康の生き方は参考になることが多い。もう少し家康の本を読んでみたいと思った。2023/01/21
活字の旅遊人
45
築山殿事件から伊賀越え、小牧・長久手の戦い。そして関ケ原、朝鮮出兵。小牧・長久手以降は端折っている感が強いが、全部やったら山岡荘八と同じだから、こういう切り口で良いんだと思う。忍びの使い方や側室とのやり取りは新鮮で面白い。阿茶局が重要視されているのはすごくいいね。側室20人だから、そこに注目した小説とか、あれば読んでみたい。本書では、信長秀吉とじっくり観察した家康が、彼らとは違う治世の哲学を実践しようとする姿に帰結するのだけど、こうなると江戸幕府開闢後の政治までしっかり読みたかったなあ、と思ってしまう。2023/07/20
だまし売りNo
38
NHK大河ドラマ『どうする家康』の予習。小田原征伐後の江戸転封は秀吉の嫌がらせ、七将襲撃で石田三成は家康の屋敷に逃げ込むと伝統的な歴史観に立っている。権力亡者になった豊臣秀吉は迷惑な存在である。関ヶ原の合戦で終わっている。その後は大久保忠隣を冤罪で改易するという負の面が家康にも出るからだろうか。 2023/06/03
Haru
29
「天下は一人の天下にあらず、天下は天下の天下なり」。己の野心で天下を獲ろうとしていたのではなく、ましてや棚ぼた式に手にはいるのを待っていたわけでもなく。戦国の群雄割拠の中で、生き残ることに知恵を絞り、「民を餓えさせぬための国造り」が現実のものとなるならば戦う意味はない、と秀吉の手を取ることも出来る。火坂さんの描く家康は、権力に魅入られた者たちを身近にみてきた故に、本当の天下を冷静に哲学を持って手に入れようとする男でした。そうした信念が根底にあるから、その後300年続く時代の基礎を築くことが出来たのかな。2018/03/24