出版社内容情報
太古より語り継がれてきたワタリガラスの神話を求め、アラスカからアジアへ――目に見えない「価値」を追い求めた星野の旅の記録。
内容説明
ぼくは、深い森と氷河に覆われた太古の昔と何も変わらぬこの世界を、神話の時代に生きた人々と同じ視線で旅してみたい―アラスカに伝わる“ワタリガラスの神話”に惹かれて始まった旅は、1人のインディアンとの出会いで思いもよらぬ方向へ導かれる。目に見えないものの価値を追い続けた著者による魂の記録。
目次
How Spirit Came To All Things
ワタリガラスの家系の男
消えゆくトーテムポールの森で
ラスト・アイスエイジ・リバー
鯨の神話は宇宙を漂う
最初の人々
魂の帰還
森に降る枝
氷河期の忘れ物
リツヤ湾の悲劇
熊の道をたどって
ジュノ大氷原の夜
エスター・シェイの言葉
レイヴン、北へ
海の底の住居跡
シベリアの日誌―1996年6月39日~7月27日
著者等紹介
星野道夫[ホシノミチオ]
1952年千葉県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、アラスカ大学野生動物管理学部に入学。以後、アラスカを生活の基盤にして撮影・執筆活動をする。86年アニマ賞、90年木村伊兵衛写真賞受賞。96年8月8日、カムチャツカ半島での取材中、ヒグマの事故により急逝(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 3件/全3件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やすらぎ
197
不思議な音が聞こえてきたのはその時だった。人には二つの音が響くという。荒々しさと美しさ。その姿が光に照らされるとき、様々な人がこの世界をどんなふうに見ているのか知りたかった。人々が集えば、喜びや悲しみ、怒りさえもただ風となって時の流れに包まれて一つになる。引潮の海辺には静謐のみ刻まれ、その思いは闇夜を越えて生命の気配を自然へと還す。星を見上げるものはもうここにはいない。いつの間にか波の音も消えている。彼が探し続けた森と氷河と鯨をつなぐもの、それは彼自身だったのだろうか。凪は何処までも陽光に照らされている。2023/01/07
SJW
176
星野さんと直子さんの結婚から今月で25年、存命であれば銀婚式だった。結婚された頃の星野さんを忍びつつ、この本を読み進めた。まず冒頭に細かい英文で綴られた3ページの長文から始まり、読み進めると、あれっ文法が...、あれっ口語すぎと思ったら、クリンギットインディアンの古老の語りを語り部のボブ・サムが文章にしたものだった。易しい英語の言葉で心を打つボブ・サムならではの文章だと納得した。ボブ・サムとの出会いによりワタリガラスの神話に引かれ、神話を求める旅に出る展開になる。旅先で様々な人々に会い、神話の話を(続く)2018/05/03
ふう
100
初めて読んだ星野氏の本「旅をする木」には写真がありませんでした。でも、文だけの本なのに、静かな海や凍るような星空、深い森の映像が、まるでそこにいるかのように心にうかんできました。この本はたくさんの写真と文で構成されています。その写真の美しいこと。長い長い時間の向こうから、遠く旅してきた光や風がたくさんのことを語りかけてきました。言葉にできない物語があること、星も森も無窮の旅を続けていること…。 わたしにとって、星野氏の文や写真にふれることは、祈りです。2017/09/15
Rin
66
ワタリガラスの伝説を求めて神話の、太古の世界へと誘われていく。遥かな時間を遡るようにヒトが足を踏み入れることが困難だと思える土地へ。でもそこで生きていたインディアンたちが確かにいた。ワタリガラス族にオオカミ族。頭の片隅にミシェル・ペイヴァーさんの「クロニクル千古シリーズ」が過り、息を飲むような写真を眺めて、ゆっくりとページを捲る。急ぐことなく、行きつ戻りつの一冊だった。博物館と、その土地に生きる人たち。祖先のお墓を暴かれて奪われた物が展示されている事実。朽ち果てるに任せたいという想いがとても切実でした。2018/08/19
Book & Travel
55
日常に少し疲れを感じたり、季節の変わり目にふと自然を感じたりした時、著者のアラスカの物語を急に読みたくなることがある。本書は、アラスカ各地に伝わるワタリガラスの神話を追って、著者が各地を旅し、様々な人に触れた物語。著者急逝のため未完となっている。優しく語りかける文章と美しく力強い写真に、遠い地の物語なのに不思議と惹き込まれていく。消えゆく神話とアラスカの自然や人々の物語は、様々なことを問い掛ける。目に見えない物と見える物の価値。時間とは。生命とは。それはまた、広い視野で物事を考えさせてくれるようでもある。2021/06/13