出版社内容情報
今度は私があなたたちの“言葉”をおぼえる
荒井尚人は生活のため手話通訳士に。あるろう者の法廷通訳を引き受け、過去の事件に対峙することに。感動の社会派ミステリー。
内容説明
仕事と結婚に失敗した中年男・荒井尚人。今の恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがて唯一つの技能を活かして手話通訳士となる。ろう者の法廷通訳を務めていたら若いボランティア女性が接近してきた。現在と過去、二つの事件の謎が交錯を始め…。マイノリティーの静かな叫びが胸を打つ。衝撃のラスト!
著者等紹介
丸山正樹[マルヤママサキ]
1961年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部演劇科卒業。広告代理店でアルバイトの後、フリーランスのシナリオライターとして、企業・官公庁の広報ビデオから、映画、オリジナルビテオ、テレビドラマ、ドキュメンタリー、舞台などの脚本を手掛ける。2011年、『デフ・ヴォイス』で小説家デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
青乃108号
538
「ワンダフル・ライフ」で感銘を受けて同じ作家の本を読んでみた。毛色の変わったリーガル物かと勝手に思い込んで読み始めたが全然違った。この息苦しさは何だ。ろう者、コーダ、遺伝、手話。全てが息苦しい。正直言って俺は関わりたくない。話のオチも途中で読めてしまうし、何の驚きも感動もなく、ふうん。で終わってしまった。そんな物語自体ははっきり言ってどうでも良かったのだが、衝撃を受けたのは滅多に読まない「あとがき」だった。著者の妻は頸椎損傷の障害者だという…つまり「ワンダフル・ライフ」は著者自身の話でもあったのだ。2025/08/11
hit4papa
399
手話通訳士となった元警察事務方が主役のミステリ作品です。本作品を読んで、「ろう者」に対する「聴者」、「コーダ」などの用語の意味や、聴覚にハンディキャップを持っている方々の文化的な側面への理解が、非常に少ないことを認識しました。ミステリとしては、詰め込みすぎの感は否めないものの、混乱することなく読み進められる良書です。所々、ろう者が受ける差別的なシーンがありますが、著者は、ネガティブな部分にだけにスポットを当てていないので、好感が持てるでしょう。道に迷い続けた主人公の、これらを指し示すラストも良しです。2020/06/02
venturingbeyond
385
傑作。ミステリーであり、当然、主人公の前に生じる謎が明らかになり、張られた伏線がしっかり回収され、最後に事件とその背景の全貌が明らかになるカタルシスはしっかりありながら、同時にろう者の置かれた社会的状況、現時点での手話言語の社会的評価とその正当な言語的地位確立の必要性、ろう者の家族の中にある聴者の置かれた複雑な境遇など、健常者側の一般的な障害認識に揺さぶりをかける重要な視点を、ストーリーを追う中で読者に投げかけ、読み終えると確かに自身の認識が更新されている。2022/12/26
Nobu A
380
丸山正樹著初読。11年刊行。「たまげた」が読了後の一言。読書の醍醐味は物語を通して未知の世界を感情移入しながら知り得ること。そこには薄っぺらい表面的な情報取得ではなく、当事者の心情や想いを知れる意義がある。本書ではそれを体現。全体像が見えない中盤まで比較的緩やかだったが、その後は畳み掛けるような展開に息を飲んでしまった。主人公のコーダである荒井尚人を中心に様々な関係者が都合よく集まり出来過ぎ感有り有りなのは否めないが、そのエンタメ性も小説の良さの一つ。何よりも「聴覚口話法」「中途失聴者」等、勉強になった。2025/11/07
yoshida
366
読メで存在を知り読了した作品。手話通訳士である荒井を通じて聴覚障害の世界を知る事が出来る。ろう者と聾唖者の違い、聴覚障害の家庭に産まれるコーダと呼ばれる健常者、法廷通訳の存在、さらにはろう者や手話の教育の歴史等。私はあまりにも無知だ。ミステリーの形式をとりながら、この作品は私に沢山の知識を与えてくれた。勿論、これは世界の入口に過ぎず、この先には更に未知の領域がある。しかし、この作品は形はどうあれ家族の在りかたの大切さ、様々な世界に興味を持つことの大切さを教えてくれる。感動まで与えてくれるこの作品は本物だ。2016/10/10




