出版社内容情報
沈没した[イ33号]。引揚げ作業中の艦内から、生けるが如き十三の遺体が発見された。証言を基にした衝撃の戦史小説。
潜水艦[イ33号]を襲った悲劇と、戦争の実相
沈没した[イ33号]。引揚げ作業中の艦内から、生けるが如き十三の遺体が発見された。証言を基にした衝撃の戦史小説。
内容説明
昭和19年6月、急速潜航訓練中に不幸な事故によって沈没し、102名を乗せたまま鉄製の柩と化した「伊号第三十三潜水艦」。9年の歳月を経て引揚げられた艦内の一室からは、生けるが如くの13名の遺体が発見された―。命がけで脱出した生存者の証言などを基に書き上げた、衝撃の戦史小説。「海の柩」「手首の記憶」など全五篇。
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927年、東京生まれ。学習院大学中退。66年「星への旅」で太宰治賞を受賞。同年「戦艦武蔵」で脚光を浴び、以降「零式戦闘機」「陸奥爆沈」「総員起シ」等を次々に発表。73年これら一連の作品の業績により菊池寛賞を受賞する。他に「ふぉん・しいほるとの娘」で吉川英治文学賞(79年)、「破獄」により読売文学賞、芸術選奨文部大臣賞(85年)、「冷い夏、熱い夏」で毎日芸術賞(85年)、さらに87年日本芸術院賞、94年には「天狗争乱」で大佛次郎賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケンイチミズバ
118
ソビエトの上陸後、生きて辱めをうけまいと劇薬と睡眠薬を飲み手首を切る看護婦たちがあまりに気の毒でならない。生存者の証言を残し伝えるべく取材協力を得ようと苦心した記者は結局自分の記事がもとで開かれることになった慰霊祭に参加しない。気持ちが抑えきれないからとの人間らしさと辛い記憶を蘇らせたことへの罪悪感が感じられる。代理出席した後輩記者は涙目で帰社し原稿を書き自身はいつものようにその原稿に朱を入れる。記者の矜持というか、最後は淡々と仕事をこなす結びの余韻がとてもよかった。手首の記憶というタイトルもとても深い。2020/12/02
サンダーバード@怪しいグルメ探検隊・隊鳥
99
大戦中の日本国内で起こったことを題材にした短編集。世に知られない悲劇がたくさんあるのだが、これもほんの一例であろう。潜航訓練中の事故で沈没し、そのまま鉄の棺となった表題作の「総員起シ」。敵潜水艦に撃沈された輸送船の遭難を描く「海の柩」。沈没した遭難者の救助よりも情報秘匿を優先する軍。そして乗り込んでいた将官がとった人間として許されな卑劣な行為。沖縄戦の従軍看護婦の集団自決を描いた「手首の記憶」。どれも当事者にとっては語り継ぐ事さえつらい出来事。だけど、私たちはその記憶を後世に伝えなければならない。★★★★2016/08/02
kinupon
90
どの話も戦争の悲惨さが込められています。市井の人から兵士まで、死と隣り合わせの極限の状態で、人は何もできないのでしょうか。2016/03/23
at-sushi@ナートゥをご存知か?
83
冷徹な吉村節が冴え渡る、戦争が生んだ知られざる悲劇を描く短編集。 救命艇にすがる兵達の手を斬り生き延び、復讐を恐れ救助を遅延させた将校達や、終戦後に引き揚げ船を撃沈し、浮遊する生存者に機銃掃射を加えるという鬼畜の所業が、何の罪にも問われていないのが腹立たしい。 集団自決から蘇生し、罪悪感を抱きながら戦後を生きた看護師達も悲痛。 表題作で、沈没後空気が残った船室で死を迎えた潜水艦員達の極限状況は、想像するだけで発狂しそう。死んでも乗りたくない乗り物No1や。 文庫本とは思えないほど読後の腕に重さが残った。2020/11/27
タツ フカガワ
80
太平洋戦争の終戦前後を背景にした5話の短編集。訓練中に伊予沖に沈んだ潜水艦。9年後、海底から引き揚げられた艦内の一室で発見された乗組員は「総員起シ」の号令でいまにも動きだしそうな遺体だった。艦内では何が起きていたのかという表題作や、北海道の小さな漁村の浜に次々と打ち上げられる手首を切り落とされた水死体。その真相に胸が塞がる「海の柩」など、戦争の現実に打ちのめされた1冊でした。2022/07/13