出版社内容情報
カリブ海の白人農園主と黒人女奴隷の間に生まれた混血児ながら、父の祖国フランスで将軍になった文豪デュマの父親の破天荒な生涯。
内容説明
カリブ海に浮かぶフランス植民地の白人農場主と黒人女奴隷との間に生まれたトマ・アレクサンドルは、父の祖国で軍人となり、勇猛果敢な戦いぶりで皇帝ナポレオンすら一目置く将軍にまで登りつめた。文豪アレクサンドル・デュマの父親の破天荒な人生。フランス近代史を彩るデュマ家三代の歴史、ここに開幕。
著者等紹介
佐藤賢一[サトウケンイチ]
1968年山形県鶴岡市生まれ。山形大学教育学部卒業後、東北大学大学院文学研究科で西洋史学を専攻。93年『ジャガーになった男』で第6回小説すばる新人賞、99年『王妃の離婚』で第121回直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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NAO
75
【2021年色に繋がる本読書会】文豪アレクサンドル・デュマの父の生涯を描いた物語。伯爵家の子として育てられても、ハンサムで長身・偉丈夫だとはいえ、黒人奴隷の母親を持ち肌が黒いというだけでさまざまな差別を受けた。彼は、フランス革命が人民の平等を目指したことに誰より感銘を受けた。これで自分も差別されなくなると信じたが、実際にはそんなに甘くなかった。誰より差別に苦しみ、自由を求めて戦ったデュマは自軍からも敵軍からも「黒い悪魔」として恐れられたが、実際に昇進したのは、小男のナポレオン・ボナパルトだった。⇒2021/02/22
夜間飛行
65
カリブ生まれの混血児デュマは侯爵である父に絶望し、一兵卒として志願する。人種差別に悩む彼にとって人権宣言は希望の光となった。公安委員に啖呵を切り、ギロチン台を焼く直情径行ぶりや巨躯怪力はポルトスそっくりだが、ロベスピエールの処刑台に潜む場面はアトスだなあ。ボナパルトに高く買われるが、彼の冷血さを見極め陣営を去っていく…この一徹さもアトスそのもの。作家になった息子デュマは父の武勇伝をダルタニャン物語に取り入れたのだろう。奴隷として育った男が、奴隷の心性を徹底的に拒み、どこにも安住できず抗い続ける姿は悲壮だ。2015/09/21
優希
56
文豪アレクサンドル・デュマの父親の物語。奴隷から指揮官にまで上り詰めてゆく。その生き様はナポレオンと重なりますが、異なるのはデュマは黒人の血から革命を己の軸にしていくしかなかったのだと思います。秀でた肉体に秘めた繊細な魂の英雄がデュマの魅力なのでしょうね。2020/08/29
アイゼナハ@灯れ松明の火
35
『三銃士』のアレクサンドル・デュマのお父さんが、フランス革命で『黒い悪魔』と異名をとり、一兵卒から将軍にのし上がった闘士で、ナポレオンの初期の幕僚だったこともあったなんて知らなかった!しかも、何て波瀾万丈な生涯・・・でも佐藤作品らしく、出番の少ないしっかり者の奥さんの印象も強かったりする。この後、大デュマ『褐色の文豪』・小デュマ『象牙色の賢者』と続いて3部作になるとのことなので早期の文庫化が待たれます。2010/08/15
イトノコ
28
何度目か再読。「ナポレオン」でナポレオン寄りになっていた心情が、これを読むと「この腐れ外道がぁ!」となる笑。しかし劇中にもあるが、彼と本作の主人公デュマは確かによく似ている。当時のフランスの辺境の島に生まれ、下級貴族の血を引き、革命という時代に乗って大出世を遂げる。違うのは、革命思想に早くから見切りをつけ己の立身出世の方便としたナポレオンに対し、デュマは黒人の血から革命を己の生きる軸にするしかなかったこと。秀でた肉体に秘めた繊細な魂。そのアンバランスが、デュマを愛すべき魅力的な人物としているのである。2019/12/08