内容説明
「私と別れても、逍ちゃんはきっと大丈夫ね」そう言って日和子は笑う、くすくすと。笑うことと泣くことは似ているから。結婚して十年、子供はいない。繊細で透明な文体が切り取る夫婦の情景―幸福と呼びたいような静かな日常、ふいによぎる影。何かが起こる予感をはらみつつ、かぎりなく美しく、少し怖い十四の物語が展開する。
著者等紹介
江國香織[エクニカオリ]
1964年東京生まれ。87年「草之丞の話」で「小さな童話」大賞、89年「409ラドクリフ」でフェミナ賞、92年『こうばしい日々』で坪田譲治文学賞、『きらきらひかる』で紫式部文学賞、2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、04年『号泣する準備はできていた』で直木賞、07年『がらくた』で島清恋愛文学賞を受賞。絵本の翻訳も多い(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
449
14の小品からなる連作短編集。主人公は一貫して同じ、結婚して10年が経つ日和子と逍三夫婦。子供はいないが、経済的にはまずは恵まれている。お話が進むごとに、もはや彼らは離婚に至るだろうと思う。日和子の視点から語られているがゆえに、我々男性の読者でさえ彼女に感情移入しながら読むことになるだろう。そうしてみた時に、パートナーとしての逍三は、はたして魅力的だろうか。でも、こんな結婚生活もあり、こんな人生もあるのだろう。何が起こるわけでもない、この小説のリアルがここにある。江國香織さんは、こんな小説も書けるのだ。2019/04/03
masa@レビューお休み中
141
モノトーンの表紙。描かれているのは、無数の羊の群れ。しかも、一頭は天高く飛び上がっている。そんな奇妙な構図の絵の横に赤字で『赤い長靴』の文字が置かれている。これだけでも十分物々しさが伝わるかと思うが、背表紙に書かれた解説の一文を読むと完全にホラー小説なのだと確信してしまうのだ。はじめ短編集かと思ってしまうほど、物語と物語のつながりが希薄で、現実味に乏しい変な世界なのです。結果的に最後まで読了すると、ホラーでもなんでもなく、いつもの江國ワールド全開な小説であることがわかるんですけどね。2014/11/27
ミカママ
96
なんだかめちゃくちゃ神経質そうな、めんどくさそうな主人公とぼんやりした感じのその夫との不思議な関係。最後は離婚かな、と思って読んでたのだけど、そうはならないわけね。久しぶりの江國作品だった。女性の細やかな心理を描かせたらうまいな、やっぱり。でもこんな女、身近にいたらめんどくさい。(苦笑2013/12/15
傘介
83
江國さんの本はこういったなだらかな、不倫も失踪もDVもない物語をとくに読み返したくなる。トイレに貼られたシール、妙な貯金箱、赤い長靴。象徴的な小道具から導かれる感情のゆれが、ひやりと澄んだ言葉で描かれる。言葉の通じない夫に日和子がくすくす笑うたび、ひやひやする。結婚10年目の妻はたぶん夫を愛しすぎている。だからくすくす笑って、どんどん寂しくなるのだ。お気に入り"妻のつぶやき思考小説"コレクション(『これでよろしくて?』川上弘美、『つまのつもり』野中ともそ、共に結婚8年前後を絶妙に描いている)に早速、追加!2010/08/01
NAO
81
【2021年色に繋がる本読書会】結婚して10年、子どもがいない日和子と逍三の暮らしからは、倦怠感が感じられなくもない。逍三は、日和子の話を全く聞かず、自分の目の前に膜をおろして他者との世界を隔てている。日和子はそれが悲しくもあるが、自分も他者との関係が希薄なので、そういった彼との薄い関係がそれほどいやでもない。静かだが、どこかぴんとはりつめた日常。二人にはその生活がとても心地よいらしいのだが、幸福といえばそう言えなくもない静かな生活は、足元から崩れ落ちそうな脆さ、何かが起こりそうな危うさをはらんでいる。2021/06/22
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- 和書
- その意図は見えなくて