出版社内容情報
旦那の尻尾を掴んでやろうぜ。スイミングスクールで知り合った美穂と秋郎は東北へと向かう。日常がほどけてゆく8つの小さな旅。
内容説明
地方営業に出かけたギタリストの夫に女の影を感じた妻が、隣家の男と営業先へと向かう表題作「夜を着る」、大人になりきれない男女のあてのないひと夜のドライブ「アナーキー」、父の葬儀に現れた愛人との奇妙な記憶を描く「よそのひとの夏」など八篇を収録。日常の皮膜が剥がれおちる旅をテーマにした短篇集。
著者等紹介
井上荒野[イノウエアレノ]
1961(昭和36)年東京都生まれ。成蹊大学文学部卒。89年『わたしのヌレエヌ』で第1回フェミナ賞を受賞。2004年『潤一』(マガジンハウス)で第11回島清恋愛文学賞、2008年『切羽へ』(新潮社)で第139回直木賞受賞。人間関係を繊細にとらえる眼差しと、生活の瞬間瞬間を切り取る確かな筆致に定評がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ミカママ
285
『夜を着る』英語のサブは『Putting the Night On Me』にまずヤラれました。全編「旅をテーマ」にした作品であったと、あとがきで初めて知った私にレビューを書く資格があるのか?日常でいろいろ抱えている男女が主人公。その日常を離れた旅先(もしくは脱出先)で・・・という設定。荒野さんのスゴいのは、物語の終わらせ方。ブチッと終わらせて、読者に余韻を残させる仕組み。上手いね。2017/08/28
さてさて
149
八つの短編は、逃げ隠れできないからこそ、日常では経験できない様々な思いを感じさせてくれたのだと思います。そして、そんな経験は日常の連続では決して変わらなかった主人公の未来を少なからず変化させました。もちろんそんな風に変化した先に続く未来が必ずしも正しいかどうかは分かりません。しかし、その未来は当たり前の日常の中に生きるだけでは決して得られないもの、非日常の『旅』を経験したから得られたものだと思いました。『旅』をテーマに描かれた短編をまとめたこの作品。ああ、私も『旅』に出てみたい、ふとそう感じた作品でした。2022/04/18
じいじ
114
著者は「小さい頃、旅がきらいだった」そうだ。幼い時の二泊三日ほどの家族旅行の行先は、すべて父が決めていたとのこと。父親は作家・井上光晴だ。荒野さん、大人になって旅が好きになったらしい。本作は、1篇が20~30頁の8つの旅にまつわる話だが、どれも井上荒野らしい感性の話で面白くて、上手い。敢えて言えば、夫婦の微妙なアヤをユーモアに描いた表題作が印象に残った。味わい深い、少しばかり物足りなさも残る、井上荒野の佳作の一冊である。2017/10/09
新地学@児童書病発動中
110
苦くて熱いブラックコーヒーのような味わいの短編集。火傷しないようにゆっくり味わうことで、この短編集のコクが分かってくる。人間の後ろ暗さや弱さが浮き彫りになる物語ばかりだ。それでも、その暗さを自分の心に浸透させることができたら、人生に覚醒できるような気がした。「よそのひと夏」は父の愛人を描く小説だ。彼女が父の葬式に来ることで、主人公は子供時代の居心地の悪い経験を思い出す。暗く重たい話だが、綺麗ごとよりは真実味を感じる。複雑な長編になりそうな内容を、17ページに凝縮した作者の鮮やかな手際が見事だった。2018/02/10
shizuka
55
もうとことんドライなのが気持ちいい。いつだって男の気持ちと女の気持ちは交わらない。見事なほどに。やっぱ女の方が強いなあ。いざとなるとすっごく冷静に現実を見つめて、それに対処しようとする力を発揮する。男の人は逃げちゃおうかなってパターンが多かった気がする。どろどろベタベタしていなくて、さくさく読めた。こういう身も蓋もない小説、いいなー。色恋沙汰が目立つけれどあとがきを読んだら「旅」の小説だったらしい笑。ああ、そういえばみんなどこかへ出かけてた!私は旅は旅で楽しみたい。曰くある旅はどんな思い出になるんだろう。2018/04/04