内容説明
キスカ島に残された四頭の軍用犬北・正勇・勝・エクスプロージョン。彼らを始祖として交配と混血を繰りかえし繁殖した無数のイヌが国境も海峡も思想も越境し、“戦争の世紀=20世紀”を駆けぬける。炸裂する言葉のスピードと熱が衝撃的な、エンタテインメントと純文学の幸福なハイブリッド。文庫版あとがきとイヌ系図を新に収録。
著者等紹介
古川日出男[フルカワヒデオ]
1966(昭和41)年、福島県生まれ。早稲田大学第一文学部中退。編集プロダクション勤務等を経て、98年『13』で作家デビュー。2002年『アラビアの夜の種族』で第55回日本推理作家協会賞と第23回日本SF大賞、06年『LOVE』で第19回三島由紀夫賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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徒花
256
うーん、まあまあ。太平洋戦争から朝鮮戦争、東西連戦の期間、日本やアメリカ、中国、ソ連などに翻弄されながら生き抜き、血統をつないでいった犬と、それにまつわる人々の物語。ときどきへんにフランクになる古川調のセリフは嫌いじゃないんだけど、これだったら『アラビアの夜の種族』のほうが個人的には好み。叙事詩よりも「物語」のほうがいいな。ただ、タイトルのセンスは最高。かっこいい。2018/07/22
yoshida
145
イヌよ、イヌよ、お前たちはどこにいる?第二次大戦のキスカ島に残された軍用犬達。彼等の子孫の系譜を辿りながら、冷戦とその崩壊の歴史を辿るクロニクル。文庫が発売された頃に読了しましたが、印象深い作品で久しぶりに再読。軍用犬について、米ソ対立から第三極としての中国共産党についてなど知らないことばかり。スターリンの個人崇拝を批判したフルシチョフへの、毛沢東を個人崇拝している中国共産党の反発など面白い。独特のリズムとスピード感があり、先の展開が読めない作品なので引き込まれます。イヌ達の系譜図が理解を助ける。良作。2019/10/05
nobby
133
「イヌよ、お前たちはどこにいる?」この問いかけがたまらない!太平洋戦争時キスカ島に残された軍用犬4頭から始まる“イヌ”と、1990年代にマフィア達がロシアで壮絶かつ不可解に暗躍する“ヒト”が交互に描かれる。中盤までどう絡むのか予測つかない二つが、イヌの血が壮大に世界を駆け巡り、あたかも愚かなヒトの今世紀を嘲笑う様に見事に結びつくのは心地よい。ベルカの由来を知りソ連が舞台であることに思わず納得。一気に読んで迎えた最後で、あらためて“おれ”の存在に行き当たり、その全て見降しながら話しかける描写に身震い覚えた。2017/11/16
遥かなる想い
129
四頭のイヌにより始まる戦争の世紀の物語である。二十世紀の紛争を 軍用犬の視点で 描く。文体が独特で 正直読みにくいのが、 少し残念。語りかける文体が延々に続き、 独特の雰囲気は感じるが、よくわからない軍用犬の物語だった。2022/11/22
パトラッシュ
129
同じ血を引く軍用犬の視点で歴史を俯瞰するとは前例のない文学的試みであり、近現代史の裏に犬が大きく関わっていたという発想のユニークさは高く買いたい。奇抜だが講談のような語り口の文体は、あふれる言葉の連打で読者を圧倒する力技だ。ただ、あまりにも犬たちの血統が世界的に広がるため、それぞれのエピソードが世界史年表の羅列のようで説明調になってしまう。歴史の重大事で犬と人が大量に死んでいくが、犬と歴史を結びつけようと偶然の出会いや強引な展開を多用するのもどうか。もう少し物語を整理して、内容を書き込めばよくなるのでは。2020/12/17