内容説明
引っ越しの朝、男に振られた。やってきた蒲田の街で名前を呼ばれた。EDの議員、鬱病のヤクザ、痴漢、いとこの居候―遠い点と点とが形づくる星座のような関係。ひと夏の出会いと別れを、キング・クリムゾンに乗せて「ムダ話さ」と歌いとばすデビュー作。高崎での乗馬仲間との再会を描く「第七障害」併録。
著者等紹介
絲山秋子[イトヤマアキコ]
1966年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後住宅設備機器メーカーに入社、2001年まで営業職として勤務。03年「イッツ・オンリー・トーク」で第96回文學界新人賞を受賞。04年『袋小路の男』(講談社)で第30回川端康成文学賞、05年『海の仙人』(新潮社)で第55回芸術選奨文部科学大臣新人賞、06年「沖で待つ」で第134回芥川賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
225
絲山秋子のデビュー作にして、文学界新人賞受賞作。彼女はその3年後に芥川賞をとるが、毎年のように文学賞を受賞し新人作家としては実に華々しいスタートを切っていた。この作品は、解説を書いている書店員、上村祐子さん言うところの絲山B(精神的破綻者たちの物語)系列に属するもの。主人公の優子は躁鬱だし、彼女を取り巻く登場人物たちも全員が変わっている。なにしろ、EDの都議、欝病のヤクザ、元ヒモのボランティアに痴漢といった布陣。蒲田の空間の中で展開する孤独で奇妙でクールな物語―イッツ・オンリー・トーク(全てはムダ話)。2013/01/20
おしゃべりメガネ
153
久しぶりの絲山さん作品で、一時期、読みやすさとボリュームの適度さにしっかりとハマッていた時期があり、手応えは確信しています。先日、こちらのレビューで見かけて、気になり手にとりましたが、期待以上にくいついてしまいました。表題作に出てくる人物はとにかく皆さん、破天荒?で笑わせてくれます。しかも、なんかほっこりといい人なのが読んでいて安心できます。しかし、個人的には併録されている『第7障害』が素晴らしかったです。とある出来事でココロに傷をおった主人公のゆっくりとした再生物語です。やっぱり人の支えって大切ですね。2015/06/16
めろんラブ
129
絲山エキスが枯渇したので、デビュー作から読み返すことに。イッツ・オンリー・トーク、全てはムダ話さと蓮っ葉な切迫感が印象的な作品。ドライでクール、それでいて諦観しない人間観と詰め過ぎ勘弁の他者との距離感は、当時から健在だったと感慨深い。病を抱えつつ旺盛な創作活動を続ける絲山さん。どんなに愚かで醜かろうと本質から目を背けない覚悟と、何物にも寄り掛からない孤高、ダメなところに愛しさや可笑しみを見出すセンス・・・「処女作にはその作家の全てがある」、故に殊更いとおしい。2013/10/28
酔拳
116
「イッツオンリートーク」は、うつ病の主人公と主人公を取り巻く人間関係を絶妙なユーモアで描いています。出てくる人が変な人が多く、奇異な世界に迷い込んだ感がありました。うつ は理解しようにもなかなか難しいという感想をもった。「第7障害」は馬の障害競技を趣味にもつ29歳ぐらいの女性が主人公です。こちらの方が、読後感がよかったです。30歳を目前にした女性の仕事観や友人関係をうまく描いています。いまの絲山さんの作品につながっている気がします。また、文庫の解説文を、ファンである書店員に依頼しているとこが斬新です。2017/12/02
しいたけ
108
優子はいい加減そうに見えて実は正反対、生きることを真面目に考えているはずだ。「精神病というやつは病気で状態が悪い上に精神病であるという事実とも立ち会わなければならない」「私は発病したとき、まるで重い鎧兜を身に付けたような気がした」。クセのある人間が何人も出てきて、意味がありそうでなさそうで、淡々とした生活はきちんと明日に繋がっている。「イッツ・オンリー・トーク、全てはムダ話だとエイドリアン・ブリューが歌う」絲山さんの実体験が織り込まれているらしい。ムダではない。不器用な者同士のささやかな支え合いは大好物。2017/03/01