内容説明
どうして私はこんなにひねくれているんだろう―。乳がんの手術以来、何もかも面倒くさく「社会復帰」に興味が持てない25歳の春香。恋人の神経を逆撫でし、親に八つ当たりをし、バイトを無断欠勤する自分に疲れ果てるが、出口は見えない。現代の“無職”をめぐる心模様を描いて共感を呼んだベストセラー短編集。直木賞受賞作品。
著者等紹介
山本文緒[ヤマモトフミオ]
1962年、神奈川県生まれ。神奈川大学卒業後、OLを経て作家に。『恋愛中毒』で第20回吉川英治文学新人賞受賞、『プラナリア』で第124回直木賞受賞
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
727
5つの短篇を収録。冒頭に置かれた表題作は文体、表現ともにプロフェッショナルな感じがしない。もっとも、読み易い、あるいは親しみやすいとして肯定的に捉える読者もいるだろうと思う。また、これらの作品群は、よく言えば演劇的、逆の見方をするならばシチュエイションや人物の造形がわざとらしいということにもなりかねない。いずれにしても、5篇はいずれも人と人との関係性に依拠している。しかも、登場人物自身にも、ましてや読者にもいかんともしがたい相互の齟齬を描き出す。その容態は、カミュ『異邦人』を通俗化したようなあり様を示す。2019/09/22
さてさて
457
”働く”ということは、社会に参加していくことなのだと思います。そして”働きたい”とは、”社会に参加したい”という意思表示の現れであり『お金のこともあるけど、そうじゃなくてさ』と言う人の中には、集団社会の中で生きる生き物同士が、自然と社会に参加していない人を思いやる感情、社会への復帰を促す思いやりの感情があるのではないか、そんな風にも思いました。『無職』となり、モヤモヤと鬱屈とした感情に包まれる主人公達。彼女たちの心の叫びに、逆に”働く”とは何なのだろうと、考えるきっかけをもらったとても印象深い作品でした。2021/06/05
馨
386
短編集。どの主人公もどこか中途半端にモヤモヤするし、不器用な面がある人たちでした。『あいあるあした』は男性主人公で、その他は女性主人公。表題作が1番インパクトがありました。共感するかと思い読みましたがどの主人公にも正直イライラしてしまい今の私はあまり共感出来ませんでした。私が周囲の人間なら、自分にはない過去や悩みを抱えたあの主人公たちの扱いが大変だろうなと思いました。2023/01/19
青乃108号
373
「無人島のふたり」で逝った山本文緒さんの2001年直木賞受賞作。市井に生きる無職の人々を中心に描いた五編の短編集。表題作は乳癌で片方の乳房を失い乳房再建手術を受けた女性の物語。生まれ変わったらプラナリアになりたい、という彼女の諦念の日々を描く。働こうと思えば働けるが全てがめんどくさい彼女。読みやすい文体でスイスイ読めるが、小さなエピソードの描き方がいちいち興味深い。ラスト1文のバッサリ!終わり!感が凄くインパクトを残す。短編集はどうも印象に残り難いけれど、表題作だけは忘れないだろうと思う。 2025/08/12
hit4papa
296
乳がんを患って、明るくも、楽しくも、元気よくもない女性が主役です。一言で表すとうっとおしい。明日へ向かっての一歩手前で、うじうじと硬直している状態です。彼女は、自ら社会不適応者を任じ、乳がんを唯一の持ちネタと公言してはばかりません。ただ、自分が彼女と同じ立場ならどうでしょう。同情的な雰囲気を嫌って、先に自嘲気味な笑いを取ろうとするでしょうか。それとも彼女のように、周りを不快にする態度を取り続けるでしょうか。変なプライドが邪魔しない分、乳がんをアイデンティティと言い切ってしまう彼女は、潔いのかもしれません。2016/08/03
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