出版社内容情報
海に落ちた車から男の遺体が。妻は夫を殺したのか? 稀代の悪女と書き立てる記者と闘志を燃やす弁護人の対決。「不運な名前」収録。
その女は本当に殺ったのか――
海に落ちた車から男の遺体が。妻は夫を殺したのか? 稀代の悪女と書き立てる記者、闘志を燃やす弁護人の対決。「不運な名前」収録。
内容説明
雨の港で海中へ転落した車。妻は助かり、夫は死んだ―。妻の名は鬼塚球磨子。彼女の生い立ち、前科、夫にかかっていた高額な生命保険についてセンセーショナルに書き立てる記者と、孤軍奮闘する国選弁護人の闘い。球磨子は殺人犯なのか?その結末は?明治の藤田組贋札事件を描く「不運な名前」併録。
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1900(明治42)年12月、福岡県企救郡板櫃村(現・北九州市)に生れる。53(昭和28)年「或る『小倉日記』伝」で第28回芥川賞を受賞。56年、それまで勤めていた朝日新聞社広告部を退職し、作家生活に入る。63年「日本の黒い霧」などの業績により第6回日本ジャーナリスト会議賞受賞。67年第1回吉川英治文学賞受賞。70年第18回菊池寛賞、90年朝日賞受賞。92(平成4)年8月死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
80
前科があり、やくざとつるみ、過去の殺人犯人を連想させる名前。鬼塚球磨子にはやくざがついているということで、彼女がシロならやくざを伴ってお礼参りにやって来るという設定のもと、疑惑が本当なのかどうなのかが明らかにされていく過程は、なかなかスリリングだった。ラストがなんとも衝撃的。併録されている『不幸な名前』は、明治初期の藤田偽札事件をドキュメンタリー風に描いた作品。 2019/08/23
セウテス
51
松本サリン事件が起こった当時、頭に浮かんだ作品でした。ある夫婦が乗った車が埠頭から海に落ち、一人助かった妻に対し夫には多額の保険金がかけられていた事実から、ある新聞記者が妻による殺人だと疑う。妻の弁護士は、世間の風評にぶれる事なく、実際の証拠をさまざまな角度から検証し事実へとたどり着く。正義の名のもと妻の犯罪を記事にして、世論の誘導に酔しれていた記者が、記事の破綻によって追い込まれていく様は正にサスペンスです。地道な証拠の検証だけから、予想を遥かに超える真実を導き出した事は、見事の一言です。風評は怖い。2014/07/28
ぐうぐう
32
「疑惑」は、とても現代的な主題を取り扱っている。マスメディアの行き過ぎた正義感による扇動的な記事が冤罪を起こすかもしれない懸念が描かれているが、そもそも記者のその正義感は市民の声を受けてのものだ。現代的に言えば、フェイクニュースを信じ込む人々の心理と似ている。それ以上に「疑惑」は、ミステリとしての存在感を大いに放っているのが頼もしい。社会派であることで本格ミステリ的要素をおざなりにしない松本清張の矜持がここからは感じられるのだ。(つづく)2023/01/12
うーちゃん
26
清張ドラマの定番といえば、「疑惑」。華やかな女優対決みたいなイメージが強いけど、原作はいたって地味。稀代の悪女・鬼塚球磨子は間接的にしか登場しないし、弁護士は中年男性。100ページほどの中編であったことも驚き。何より後味の悪さがすごい。追い詰められた人間の、何かが決壊する瞬間を見せつけられる。女は図太く強か、男は土壇場で弱いというのは清張作品ではよくみる男女像だから、好きな人には安定して面白い。2019/03/09
☆エンジェルよじ☆
26
ある事件の被告となった女性を『鬼女』として記事にして世論を煽っていた新聞記が優秀な弁護士により、真相が解明される事への恐怖。記者の焦りに反して淡々と真相解明をする弁護士。一番ドキドキした場面は思いもよらない衝撃のラスト!読み応え十分の大満足の一冊でした。2016/01/31