内容説明
「アロエが、切らないで、って言ってるの。」ひとり暮らしだった祖母は死の直前、そう言った。植物の生命と交感しあう優しさの持ち主だった祖母から「私」が受け継いだ力を描く「みどりのゆび」など。日常に慣れることで忘れていた、ささやかだけれど、とても大切な感情―心と体、風景までもがひとつになって癒される13篇を収録。
著者等紹介
吉本ばなな[ヨシモトバナナ]
1964年東京都生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。87年「キッチン」で海燕新人文学賞、88年単行本『キッチン』で泉鏡花賞、89年『TUGUMI』で山本周五郎賞を受賞。アメリカ、ヨーロッパなど海外での評価も高まっている
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
198
どこから読んでも、どこをどうとらえても、とにかく360度同じカラーなのが「ばなな」さんです。どの作品も至って‘普通’なのですが、その‘普通’さが読んでいくうちにこの作家さんだけにしか出せない独自の世界観なんだなぁとしみじみ感じます。なんてことない日常の出来事や、キモチの流れなどを巧みに書き綴る今作は清涼飲料水のようなショートショートの13編ですが、僅かな限られたページ数の中にも、しっかり&がっちりと「ばなな」カラーを彩ってきます。やっぱり改めて「ばなな」さんって偉大な作家さんなんだと思い知らされます。2015/10/24
HIRO1970
165
⭐️⭐️⭐️吉本さん(漢字)だった頃の15年程前の短編集で13のお話が入っています。当時著者はいろいろと悩みがあったような感じが作品からひしひしと感じられました。題名と同じ短編は無いので、全体を総称して付けた題名のようです。過去の体験を何かの拍子に突然思い出し、それを辿って過去に遡ると今まで気付かなかった真実が見えたり、今までの無意識下の自分の行動に随分影響を与えていた真実に気がつくと言うようなお話がいろいろと載っています。こういう繊細な感じの著者ならではの世界観にふと触れてみたくなる時があります。2015/11/02
ヴェネツィア
154
掌編と、それに近い短編を13篇収録。フィクションだが、いずれも作家本人を思わせるような女性が主人公。そのことが、一見ばらばらな物語群に統一感を与えている。物語集のタイトルにあるように、どの作品も多かれ少なかれ「体」が物語の核にあるようにも思えるが、あまり深い意味はないのかも知れない。集中では巻頭の「みどりのゆび」が、とりわけ印象的だ。「ひとりのアロエを助けたら、これから、いろんなね、場所でね、見るどんなアロエもみんなあんたのことを好きになるのよ」と臨終を間際にしたおばあちゃんが語るところはことに魅力的だ。2013/01/06
黒瀬
136
日常に慣れて忘れてしまった大切なものの記憶を取り戻し、ふとした瞬間に湧き出る温かい気持ちをそれぞれの物語として具現化した印象のある短編集。中でも巻末に収録されている『いいかげん』が大好き。ウェイトレスと老人による通帳覗き見攻防戦から始まった愛を知り、孤独を埋める物語。自分の中の忘れてしまった温かい記憶はなんだろうと思い出を探りながら、繰り返し手に取る愛読書になりそうです。2020/04/14
mocha
92
読んですぐに書いた感想はとても否定的だったので削除した。理性よりも感覚、頭よりも体の言うことを大事にして生きる女性たちは「感性」という言葉を盾に開き直っているみたいで不快だったから。間を空けて思い巡らすと、若い頃の考えの浅い自分が透けて見える。ばななさんを読むとそういう共感の痛みがある。若い頃に読んだなら、ダメな自分を肯定してもらえたかもしれない。今の私には苦かった。2018/06/18