出版社内容情報
オーストラリア北端の木曜島では明治初期から多くの日本人が白蝶貝採取に従事していた。彼らの哀歓と軌跡を辿る表題作ほか3篇。
内容説明
オーストラリア大陸の北端に浮かぶ、木曜島。その海底は、高級ボタンの材料となる白蝶貝の宝庫であった。明治の始めから太平洋戦争前まで、多くの日本人が採取のために雇われた。サメの恐怖、潜水病に耐えつつも異国の海に潜り続けた彼らの哀歓と軌跡から、日本人を描き出した表題作ほか、歴史短編三編収録。
著者等紹介
司馬遼太郎[シバリョウタロウ]
大正12(1923)年、大阪市に生れる。大阪外国語学校蒙古語科卒業。昭和35年、「梟の城」で第42回直木賞受賞。41年、「竜馬がゆく」「国盗り物語」で菊池寛賞受賞。47年、「世に棲む日日」を中心にした作家活動で吉川英治文学賞受賞。51年、日本芸術院恩賜賞受賞。56年、日本芸術院会員。57年、「ひとびとの跫音」で読売文学賞受賞。58年、「歴史小説の革新」についての功績で朝日賞受賞。59年、「街道をゆく“南蛮のみち1”」で日本文学大賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
107
司馬作品としては少し異色の印象がある短編集でした。どの作品も歴史的無名とも言えるような人たちを描いているからかもしれません。歴史に名を残すような人々を描く壮大な歴史物語もいいですが、このように脇を飾った人を描くのもまた、想いが詰まっているような気がします。2016/10/29
レアル
71
短編集。明治時代から昭和初期にかけて、オーストラリアの木曜島まで出稼ぎに行った男たちを描いた表題作。そして幕末を生きる男たちを描く作品等、歴史上に登場する主役級より少し脇役気味の人達を描いた作品が多く、「有隣は悪形にて」「大楽源太郎の生死」は対になるような作品で、短編のせいか、司馬氏の小説によくある「余談」も詳細過ぎる記述もなく、シャープな描写が目立つ作品が多かった。一つの作品に人物の思いをギュッと収めた重厚で味わい深い作品ばかりで、短編でもその人の生き様を十分に味わえるのも司馬氏の良さなのかもしれない。2015/10/06
NAO
58
司馬遼太郎最後の短編集。「木曜島の夜会」木曜島は、オーストラリアとニューギニア島の間のトレス海峡に位置する小さな島で、かつてボタンの原料としてヨーロッパに高値で輸出されていた白蝶貝を海底に潜って採っていたのは熊野の男たちだった。戦前、貧しい山村の住民が生き残りをかけた出稼ぎ。その過酷さはそのまま日本の貧しさだったのに、そういった過酷な出稼ぎのとはあまり知られていない。だからこそ、作者はそれを書き残こそうと考えたのだろう。「有隣は悪形にて」と「大楽源太郎の生死」は、幕末の長州人2人を主人公とした歴史小説。2024/04/07
Taka
49
短編集。木曜島はオーストラリアにある実際の島の名前。戦前そこに素潜り漁の出稼ぎに行っていた日本人がいたらしい。その他の編は幕末が中心。2019/06/04
AICHAN
47
Kindle本。再読。 オーストラリアの北方に浮かぶ小島“木曜島”。その近海の海底には膨大な数の白蝶貝がいた。昔、貴人のボタンは白蝶貝から作られていた。この貝を獲っていたのは日本人だった。オーストラリアの英国人は白蝶貝の生息を知っていたが、20~40メートルも潜ってそれを獲る英国人はいなかった。ニューギニアの原住民もマライ人も中国人もダメだった。ひとり日本人だけは狂ったように潜って白蝶貝を獲り続けた。金のためもあったが彼らを突き動かしていたのは競争心の激しさのようだった…。2020/11/18