内容説明
努力家タイプの謹厳実直な中年会計士、天才的な兄と比較される凡庸な弟、かつては劣等生でいまや産業界の大立者になった元教え子に翻弄される老いた高校教師…。普段あまり脚光をあびることのない優等生たちのほろ苦人生を、親身にやさしく、絶妙な筆運びで描き、単行本発表時に絶賛された珠玉の中篇集。
著者等紹介
ケイニン,イーサン[ケイニン,イーサン][Canin,Ethan]
1960年、ミシガン州生れ。スタンフォード大学で英文学を、アイオワ大学で創作を学んだのち、ハーヴァード大学医学部で博士号を取得。88年にデビュー作である短篇集「エンペラー・オブ・ジ・エア」でホートン・ミフリン文学奨励賞を受賞している
柴田元幸[シバタモトユキ]
昭和29(1954)年、東京生れ。東京大学教養学部助教授。アメリカ文学専攻
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
388
イーサン・ケイニンは初読。訳はお馴染みの柴田元幸氏。4つの作品を収録する。「訳者あとがき」でも指摘されているように、これら4つの小説の主人公たちはいずれも、いわゆる優等生たちである。ただし、優等生が一貫して優等生であり続ける人生を送るならば、そこに物語は生まれてこない。ケイニンは、そんな優等生たちが一瞬踏み外した行為を物語の核として構想し、それを小説として構成してみせた。そして、それぞれわずか80ページ弱の小説に中に彼らの人生が凝縮されている。なお、小説作法としては、創作科で学んだというそうした手法の⇒2019/10/19
たー
16
真面目な優等生の悲哀、葛藤。訳者あとがきにある通り、こういう小説ってあまりないかも。2017/03/05
空崎紅茶美術館
10
「人格は宿命だ」苦くて重い。真面目にしていても、それが辛いのなら、それは自分に向いていないということ。なのに止められないのは、それが自分だから、性格だから。優等生であることはそんなに偉いことなのか、劣等生であることはそんなに恥ずかしいことなのか。その逆も、また。しかし、それすらも自分の立ち位置による偏見に過ぎない。優越と傲慢さ。自分に負担をかけないように、でも自己肯定をもって器用に生きていくのは、なかなか難しいものだ。★★★★☆2010/06/05
ふるい
9
読む前はタイトルから幻想的な作品を想像していたが、読んでみると苦味のあるリアリズムな中編小説集だった。世代間の価値観のズレから生じる悲哀や、心正しく生きることが必ずしも成功に繋がるわけではいないという苦い現実が突きつけられる。2024/01/28
メセニ
9
変人、狂人、秀才、とびっきりのクズ、そのベクトルは何だって良いのだけど、規格外の人間というのはたいてい話のネタになる。あるいは平々凡々もそれはそれで悪くない。この本の主人公はどれもそこそこ実直で優等生なタイプ。現実でも虚構でも、どうにも面白みのない人間として扱われる損な役回りだ。イーサン・ケイニンはそういう人たちにあえてスポットを当てる。主人公と対をなす非凡なる人物を配すことで、何ともビターでエレジーな人生の輪郭を炙りだす。作家の筆致は優しいけれど、「人格は宿命である」という言葉に何だか深く息を吸えない。2017/07/22