内容説明
駅前の居酒屋で高校の恩師と十数年ぶりに再会したツキコさんは、以来、憎まれ口をたたき合いながらセンセイと肴をつつき、酒をたしなみ、キノコ狩や花見、あるいは島へと出かけた。歳の差を超え、せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆく、センセイと私の、ゆったりとした日々。谷崎潤一郎賞を受賞した名作。
著者等紹介
川上弘美[カワカミヒロミ]
1958(昭和33)年、東京都生まれ。お茶の水女子大学理学部卒業。94年、「神様」で第1回パスカル短篇文学新人賞を受賞。96年、「蛇を踏む」で第115回芥川賞を受賞。99年、『神様』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、紫式部文学賞、2000年、『溺レる』で伊藤整文学賞、女流文学賞を受賞。2001年、『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞を受賞
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
829
この小説には2つの大きな特色がある。まずは、ヒロインが38歳であり、70歳(推定)の男性との恋の物語であること。全体としては長編小説なのだが、その構成はいくつもの掌編を積み重ねるという手法をとっていること。なんだか、せつない物語なのだが、センセイ(私の恋の相手)は、既に老人でもあり、もちろん美貌でもなく、気の利いた会話ができる訳でもないし、さほどお金もない。つまり、これでも女性から惚れられるのだ。逆に言えば、条件なんてどうでもいいのだ。こんなところが、世の中高年男性の圧倒的支持を受けたのだろう。2012/06/01
さてさて
503
『歳は三十と少し離れている』元教師と生徒が偶然の再開を機にお互いを意識し、お互いの存在を感じ、そしてお互いを愛しみあっていく様を描いたこの作品。何気ない日常の描写の連続に気持ちが入っていかない思いで始まった読書が、いつしかその世界観にすっかり夢中になっていたこの作品。気がついたらため息が漏れそうな余韻の中に結末を見る、全編に登場する印象的なそれでいて存在を主張しない「センセイの鞄」の絶妙な位置付けが作品を静かに彩るこの作品。独特な雰囲気感の中で静けさの中に灯る一本の蝋燭の炎を見るような、そんな作品でした。2021/11/27
青乃108号
475
これは良かった。センセイと月子さんの物語。センセイにしても月子さんにしても、その人物像は深くは描かれておらず、読み手の想像が拡がるところが何とも言えず良い。1文1文がいちいち味わい深く、疲れた心に染み渡る。いつまでも読んでいたかった。そして何度も読み返したい、一生物の本。この本は正しい。2022/06/23
抹茶モナカ
356
学生時代の恩師センセイと再会したアラフォー女性が、飲み屋でゆるゆるとセンセイと酒を酌み交わしているうちに、センセイと恋に落ちて行く物語。静かな小説で、庄野潤三とか、初期の保坂和志とか、その辺の日常を描いた感じの小説と似ている。センセイとツキコさんが恋愛する必要があったのか、二人で酒を酌み交わしているだけのシーンの連続だけれでも気持ち良かったので思った。恋愛要素に白ける瞬間もあったけれど、読み終えてみて、「まあ、これはこれで良かったのかな。」と思った。2016/07/26
小梅
337
初読み作家さん。ツキコさんのもどかしい恋心に悶々しながら読み、終盤で泣けた! 2019/04/11