内容説明
大学の心理学科に通う「僕」は、ひょんなことから自閉的な少女・下路マリの家庭教師を引き受けることになる。「僕」は彼女の心の病を治すため、異空間にワープしたダックスフントの物語を話し始める。彼女は徐々にそのストーリーに興味を持ち、日々の対話を経て症状は快方に向かっていったが…。表題作ほか三篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐々陽太朗(K.Tsubota)
134
純文学です。哲学的です。気が利いた会話が素敵です。あたかも村上春樹を読んでいるかのような気分でした。本作が上梓されて八年後に藤原文学の金字塔ともいうべき『テロリストのパラソル』が上梓される。純文学からミステリにワープしたわけだが、しかし実は表題作『ダックスフントのワープ』にもハードボイルドの萌芽を見ることができる。その短編の中の寓話で、ダックスフントは大好きな少女の笑顔のために[邪悪の意思の地獄の砂漠]にワープし、そこで自ら課した規範に従って困難に立ち向かう。それがダックスフントの「誇りの問題」なのです。2016/01/21
KAZOO
121
この本が藤原さんの作品を再度読み直す最後の作品です。が、一番最初に発表された筆者の作品です。童話というか、SFというのか範疇はわかりませんが私は小さな結構ませた女の子(いつも広辞苑をそばにおいて難しい言葉を使っています)に聞かせる話ということで、楽しめました。2018/01/20
サンダーバード@永遠の若者協会・怪鳥
113
伊織さんのデビュー作を最後に読む事になった。家庭教師を務める僕が、教え子である少女マリに語るワープをするダックスフントとその犬が彷徨う事になる「邪悪の意思の地獄の砂漠」というなんとも不思議な物語。作者名を伏せて問えば、多くの人が他の作家名を答えるだろう。伊織さんというと「テロリストのパラソル」に代表されるストイックなハードボイルドというイメージなのだが、デビュー当時はこんな作品も書いていたんだと正直言ってちょっと驚いた。これで伊織さんの作品はコンプリート、もう新しく読む事ができないのは寂しい。★★★2019/06/05
セウテス
75
〔再読〕作者デビュー作の「ダックスフントのワープ」を入れた、4作品の中短編集。大学生の主人公は、自閉的な少女の家庭教師となる。ある時異空間にワープしてしまうダックスフントの話に少女は興味を示し、徐々にではあるが病状は快方に向かうのだが。読者によっては、村上春樹を読んでいる様だと言う人もいる。何とも不思議な哀しいイメージの終わり方の作品たちだが、人と人との関係の大切さを感じる物語だろう。藤原氏の作風に感じる、夢や希望を打ち砕いてしまう徹底した現実の存在、それが「テロリストのパラソル」に繋がったのだろうか。2017/09/06
Take@磨穿鉄靴
66
藤原伊織氏の短編集。ポップな色合いの表紙。でもよく見るとダックスフントの表情そんなに明るくない。表題のタイトル「ダックスフントのワープ」も同じで物語の中で語られる寓話は星の王子様みたいな感じだけどあまり明るくはない。ラストは悲しい。ハードボイルドなイメージのいおりんぽくない印象。良くも悪くも普通な感じ。★★★☆☆2018/10/05