出版社内容情報
イタリア人の夫、日本にいる父と母、フランスで知り合ったドイツ人の友達、様々な出会いと人間の生き様を描く珠玉のエッセイ12篇
内容説明
ヴェネツィアのフェニーチェ劇場からオペラアリアが聴こえた夜に亡き父を思い出す表題作、フランスに留学した時に同室だったドイツ人の友人と30年ぶりに再会する「カティアが歩いた道」。人生の途上に現われて、また消えていった人々と織りなした様々なエピソードを美しい名文で綴る、どこか懐かしい物語12篇。
目次
ヴェネツィアの宿
夏のおわり
寄宿学校
カラが咲く庭
夜半のうた声
大聖堂まで
レーニ街の家
白い方丈
カティアが歩いた道
旅のむこう
アスフォデロの野をわたって
オリエント・エクスプレス
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
506
須賀敦子さんつながりで手に取った2作目。過去を追想しつつ書かれた現在(当時)で、時系列はバラバラ。家族のことをここまでセキララに書いちゃっていいのかという思いと、当時はおそらく中の上流階級のはしっこにいらっしゃった作家さんの、それでも波乱万丈だった娘時代のこととか。うちの親(ちょっと世代は違うが)とほぼ同時期に生きた彼女の、その気概を思うと胸が熱くなる。2025/04/16
mukimi
143
私が理想の文章と心酔している福岡伸一先生が絶賛していた須賀敦子氏。背景も知らぬまま手に取り読み始めた。読みながら祖父母世代の富裕層で海外で長く暮らし晩年に多くの名随筆を遺した女性であることを知る。地に足のついた精緻な文章の背後に流れる感傷、私のような若造には軽々しくレビューできない、喪失を通過した大人の文章。福岡先生の文章と通じる文学性。人間の限りある時間と肉体では果たしきれない夢や希望にこそ人生の美しさが宿り、記憶や遺産の尊さが際立つ。亡くなった人々の分も今現在を尊び生きたいと静謐な想いで読了。2024/01/28
はたっぴ
100
須賀さんが自ら「書けて良かった」と言う四作品の一つ。ここでは家族と夫、留学先での交友が描かれており、ずっしりと重く胸に響くものだった。ヴェネツィアの宿で、窓の外から聞こえてくる夜の歌劇に紛れて、亡き父を複雑な心境で思い出す表題作から、父の死に際を描く最終章まで、ルーツを辿るように数々のエピソードが盛り込まれる。迷路のような寄宿舎生活、欧州人との思考の相違に戸惑う留学生活についても美文で語られ、著者の生き様が言葉に宿り作品の隅々にまで浸透している。どれほど時間が経っても瑞々しく感じられる稀有な一冊だと思う。2016/09/18
のぶ
76
名エッセイだと思った。文庫の初版が1998年、その後、版を重ねて現在も読み継がれているのがその証だと思う。本人がイタリア文学者で翻訳家だったこともあり、軽くはないが、非常にしっかりした文章で、国の内外で自身の経験した体験や、家族との交流が綴られている。表題作はタイトルの通りヴェネチアでの思い出を語ったものだが、そのほか様々な場所での12の話が集められている。芯の通った充実した内容の一冊だった。2017/02/23
kaoru
73
須賀さんの半生が語られた随筆集。戦時下に青春を過ごしキリスト教を生きる糧とした須賀さんの歩み。若い時代の父母の不仲、フランスでの寄宿生活やイタリアでの日々。寄宿舎でイタリア語を教えてくれたドイツ人カティアや夫の死後支えてくれたカロラとは年月をはさんで再会する。両親や親戚の出自と思い出が詳細に語られるかと思えば、イタリアでの夫ペッピーノとの幸せな結婚生活が過ぎ去った儚い夢のように綴られる。関西の豊かな家庭に育ちながら日本を離れ、ヨーロッパ的教養を身につけた稀に見る女性が辿った人生の喜びや哀しさが読むこちら→2021/02/24
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