出版社内容情報
日中復興のシンボルとして構想された製鉄所建設だったが、日本企業は中国首脳に翻弄される。日中の間で悩む陸一心が選んだ進路は
内容説明
「あつ子、すまなかった、探し出すのが遅過ぎた」―陸一心こと松本勝男は、三十六年ぶりにめぐりあった妹・あつ子に泣いて詫びた。妹は張玉花と名のり、寒村で過労の果てに病いの床にあった。兄妹の実父・松本耕次は、子供らの消息をつかみえぬまま、奇しくも陸一心とともに日中合作の「宝華製鉄」建設に参加していた。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
106
巡回医療隊の妻からの知らせで主人公は衰弱した妹と再会、そこへ実父も駆けつけてお互いの関係が判明する。「自分が日本人であることも分からず」「牛馬の如く酷使されているのが本当の戦争孤児です」—妹との再会は全編の山場というべき場面で、その悲痛を極めた生涯に胸打たれる、ここは著者が最も描きたかった部分だろう。丹青や家族との絡みが物語後半の推進力。一方で現場の描写はどこか説明的で臨場感に欠ける。これは戦争孤児の悲惨な運命を描くことに重きを置き過ぎた結果なのかもしれないが、3巻でますます浮き彫りになったように感じた。2018/05/11
zero1
84
生き別れとなっていた妹、あつ子との悲しすぎる再会。一心は日本人、松本勝男として生きるのか?「二つの祖国」でも描かれた葛藤がここでも。2019/07/12
Rin
78
[借本]探し求めていた家族にやっと出会うことが出来た一心。だけれども、その再開にはあまりにも残酷な現実がついてきた。戦争の時代に中国に取り残された日本人がどれほど理不尽な状況に置かれていたのか。自分の力ではどうしようもできない現実の中で、それでも生き抜いてきた人たちに対する日本国の対応のお粗末さも感じる。そして、親と子、血の繋がりに気付くことなく言葉を交わし合う松本さんと一心。家族なのだと気付いた時の彼らも気になる。でも今は死ぬ前に一度でいいから祖国の土を踏みたいと願う彼女の祈りが届いて欲しいです。2019/03/31
おたま
68
一心(松本勝男)はついに、妹・あつ子を見つけ出す。あつ子もまた中国人に買われて、張玉花(ツァンユウホワ)として生きてきた。一心と別れてからの生き方は、一心とはまた異なる凄絶なものだった。二人が会い、それぞれが別れた兄妹であることを確認する場面は、涙なくしては読めない。父、松本耕次も参加している「日中心を結ぶ会」には他にも多くの中国残留孤児の人々がやってくるが、皆苦難と少しの希望をもってやってくる。それがかえって心を苦しくする。現実にもきっと多くの中国残留孤児の方たちが同じように生きてきたのだろう。2021/10/26
あらたん
66
勝男とあつ子の運命の違いが残酷。親子のすれ違いももどかしい。数世代前にこのような運命に翻弄された人が沢山いたことを思うと今はとても良い時代。先人たちへの感謝の念が絶えない。2024/09/06