出版社内容情報
男女医学生たちが解剖や外来実習や恋や妊娠にあたふたしつつ生き方を探る。そして彼らの十五年後。人生の実感を軽やかに綴った長篇
内容説明
新設間もない秋田大学医学部に、挫折と不安を抱えながら集まった医学生たち、和丸、京子、雄二、修三の四人は、解剖に外来実習に、失恋に妊娠に患者の死に悩み、あたふたしながらも、自分の生き方を探っていく。そして、彼らの十五年後―。自らの体験を振りかえりつつ、人生の実感を軽やかに爽やかに綴る永遠の青春小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
502
初読み著者さんで彼についての何の知識もないどころか、なぜこの本がうちの本棚にあるのかも分からずに読みはじめ…からの一気読み。遥か昔に読んだ、輝りんの『青が散る』の医学部バージョン。地方の新設医学部に入学した四人の男女の成長物語。わたしのような人生黄昏期に入ったおばちゃんが読むだけじゃもったいない、人生の岐路に立つ若い人たちにぜひ読んでもらいたい。2021/08/14
ヴェネツィア
352
著者が「大衆小説」を自称する南木佳士にしては珍しい作品。何故なら、読者の誰もが知るように、暗鬱なといってよい田舎での医療の現状が強いリアリティを持って語られるのが彼の小説の常だからである。それに比して、『医学生』は明るい郷愁に満ちている。たとえ秋田を、そして秋田大学の医学部を「こんな田舎町、こんな辺境の大学」と書いたとしてもだ。自虐的なのではなく、そこはやはり南木にとって青春を過ごしたかけがえのない地なのだ。ここに展開する4人の医学生たちの群像は、それぞれにちょっとほろ苦く、とってもハートウオーミングだ。2016/01/23
匠
148
教養課程が終わった医学部学生4人の4年間と、卒後15年経った姿を現役医師である作者が当時を思い返しながら描いた青春群像劇。どの登場人物の中にも作者の経験や考えが、ユーモアや悲哀とともに散りばめられていた。1年目で始まる解剖実習があまりに詳しく書かれてるので、数年前の自分を鮮明に思い出したのはもちろんだが、昔に観た映画『ヒポクラテスたち』の臨床実習や、ビデオで借りたドラマ『輝く季節の中で』のポリクリなんかも思い出した。でも時代や大学によってやはり色々違うものだなぁというのが正直な感想。(コメント欄へ続く⇒2014/05/21
新地学@児童書病発動中
128
医者を目指す4人の男女を描く長編。さまざまな思いを秘めながら、人の命を預かる仕事をしていこうと決意する登場人物たちの生き方に読んでいて胸が熱くなった。みんな決して立派な人間ではなく、行きつけの酒場の女性を妊娠させてしまい、渋々父親になって雄二のような人間も描かれている。小説を読んでいて、プロットの作り方はうまくても、登場人物に真実味が感じられないこともあるが、南木さんのこの小説はそれとは正反対だ。その登場人物も存在感があって、人間としての温かみを感じる。命を愛おしく思う気持ちを深めてくれる傑作。2016/01/03
まーくん
121
文学の素養なく芥川賞作家南木圭士さん存じ上げてなかった。読み友さんレビューで故郷秋田が舞台と知る。国立大医学部として戦後初めて新設された秋田大医学部。その二期生として入学した著者。まだ校舎も病院もなく、学生を医師として育てる型枠となる伝統もなかった。その中で挫折と不安を抱えた医学生が成長していく姿を、解剖実習でグループになった四人の男女の姿に託し綴る。芥川賞を受賞した著者であったが、当時医師として苦悩し精神を病んでいたという。その著者が寒々とした秋田への”都落ち”で始まった若き日を振り返り心の澱をそそぐ。2021/08/22