出版社内容情報
人生とはふいに吹く風のようなものかもしれない……。上質のユーモアをちりばめた温かい視線が心うつ、人間通に捧げるエッセイ集
内容説明
人生とはふいに吹く風のようなものかもしれない…。医師として数多くの死と立ち会い、作家として生と死の赤裸々な姿を描き続ける筆者が、少年時代の記憶から芥川賞受賞、そして現在に至るまでの、人生の断片を見つめて綴った随筆集。温かなユーモアに彩られた、真摯な視線が心をうつ、人間通に捧げる一冊。
目次
1 ふいに吹く風
2 ゆるやかな助走
3 両輪で走る
4 医療の現場から
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
281
タイトルからは小説かと思ったのだが、掌編エッセイであった。語られている期間は案外に長く、小説家としてデビューする随分以前から芥川賞受賞の頃まで。全体を貫流するのは、やはり「死」に向き合う医師としての作者である。そうした一連の随想の中では、殊さらに「人間・深沢七郎」が淡々たる生の歩みと、やはり淡々たる死とが観想されており、趣きも深い。「ふいに吹く風のように消え去る」人の生を医師として眺め、そして真摯に向き合ってきた南木佳士の姿が垣間見え、小説とはまた幾分かは違った様相を知ることができる得難い作品かと思う。2016/01/24
みも
69
良質なエッセイ集。端正な筆致で、あざとさも衒いもなく、ただ率直に真摯に、時に自虐的に、時に自戒を込めて、あくまで謙虚な姿勢は崩さず、ご自身の人生の機微に触れる。記述は群馬県嬬恋村に住む幼少期から東京での中高生時代、秋田の医学生時代、信州佐久総合病院内科医勤務の中で小説執筆に至る経緯、そして文學界新人賞受賞を経て、芥川賞受賞に至る周囲の狂騒。発表紙上も様々で長期に亘る為、重複している内容も少なからずあるが、いつ、どこに書こうともその本懐は首尾一貫しており、大地に踵を付けている姿が清々しく僕を捉えて魅了する。2019/01/25
piro
39
30年以上前、南木さんが40歳前後の時期に書かれた最初のエッセイ集。医者と小説家の2足の草鞋を履き、文學界新人賞、芥川賞を受賞。側から見ると順風満帆に見えるこの時期、澱のように少しずつ沈殿していく苦しみもあったのだと感じました。ふいに吹く風の様に死はふいに訪れるという。そんな感覚が身に付いていく過程を垣間見た気もします。後年のエッセイと比べるとどことなく青臭さの様なものも感じる反面、一貫した真摯さはずっと変わることなく、作家・南木佳士の根底にあるのだと強く感じます。2024/11/19
アキ・ラメーテ@家捨亭半為飯
37
医者として多くの人の死を看取って来たからこその死生観が色濃くあらわれたエッセイ集。早くに母を亡くし、貧しいながら自然の中で祖母と暮らした子供時代、肩に力の入った青年医師時代の話。ふいに吹く風=死。/ 引用>> 死者を見送るとき、過度に悲しまなくなったのは、それが明日の自分の姿だと知ったからであり、明日を楽観し過ぎる人たちと話が通じなくなったのも、ふいに吹く風の存在を知ったからだった。2016/09/08
頭痛い子
2
南木佳士さんのエッセイは幾つも読んでいるが、これも最高。南木さんがこれを書いてた時と、いまの私が同じ年齢くらい。良質で実直。名編集者に育てられたという南木さんには確かに、初心者が使いがちな言葉遊びや自分に酔ってる文章が一つとしてない。2024/07/25